NHKの報道番組でやらせがあったとされる問題をめぐり、NHK、民放でつくる放送界の第三者機関、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は、政府・与党が介入したことを厳しく批判する意見書を公表した。BPOが政府・与党を批判するのは極めて異例である。

 問題となったのは昨年5月に放送された「クローズアップ現代 追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」。

 意見書ではNHKに「重大な放送倫理違反があった」とする一方で、NHKを厳重注意した総務省を「政府が個別番組の内容に介入することは許されない」、NHK幹部を呼び出し事情聴取した自民党を「政権党による圧力そのもの」と強く非難している。

 放送による表現の自由は憲法によって保障されている。放送法は一条の目的で「放送の不偏不党、真実及(およ)び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保する」と原則を定める。

 意見書が強調するように、「放送の不偏不党」「真実」「自律」は、放送事業者や番組制作者に課せられた「義務」ではない。これらを守らなければならないのはむしろ政府などの公権力である。放送免許の許認可権限が総務省にあり、時々の政府がその政治的な立場から放送に介入することを防ぐためである。

 意見書は政治介入は放送法が保障する「自律」を侵害する行為であるとも批判している。検証や見直しは、放送局自身やBPOが自律的になすべきなのだ。

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 NHKもBPOの指摘を深刻に受け止めなければならない。番組内で詐欺に関わるブローカーとして匿名で紹介された大阪府の男性が「NHK記者の指示で架空の人物を演じた」と週刊誌で告発、やらせの疑いが浮上した。

 BPOの検証委は記者会見で「番組は(取材や番組制作のルールを決めた)NHKのガイドラインにことごとく違反している」と指摘した。意見書では「報道番組で許容される演出の範囲を著しく逸脱した表現と言わざるを得ない」と断定している。

 NHKの調査委員会が4月にまとめた報告書ではやらせを否定し「過剰な演出」と「実際の取材過程とかけ離れた編集」があったと釈明した。

 意見書は「視聴者の一般的な感覚とは距離があり、演出や編集の問題に矮小(わいしょう)化している」と疑問視している。一般的にはやらせと受け止められても仕方ないということだ。

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 自民党は昨年の衆院選前にNHKと民報キー局に選挙報道の公正中立を求める文書を送ったり、報道番組をめぐりテレビ朝日幹部も呼び出したりしている。

 安倍晋三首相に近い若手議員らの勉強会では「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくすることが一番だ」との意見が飛び出す。

 報道の自由は民主主義の根幹を成す。意見書は「放送に携わる者自身が干渉や圧力に対する毅然(きぜん)とした姿勢と矜持(きょうじ)を堅持できなければ、放送の自由も自律も浸食され、やがては失われる」と記す。放送局も覚悟を問われている。