トランプ米政権は新たな核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」を発表した。

 新指針は、核兵器の使用条件を緩和したことと、爆発力を低く抑え「使える核兵器」として小型核の開発を盛り込んだことが特徴だ。

 核兵器使用の敷居を下げ、核軍拡を招きかねない内容である。 

 新指針は、通常兵器による攻撃を米国や同盟国が受けた場合、核兵器による報復を排除していない。基幹インフラへのサイバー攻撃に対する反撃にも拡大する。

 オバマ前政権が検討した核兵器の先制不使用も「妥当でない」と否定した。

 さらに敵国の重要施設などへのピンポイント攻撃を想定し、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に搭載する小型核を開発するとしている。

 見直しはロシアや中国、核・ミサイル開発を進める北朝鮮、イランを名指しし、「米国は冷戦終結後、最も複雑で厳しい安全保障環境に直面している」ことを理由に挙げる。

 名指しされた中ロはすぐさま反発した。

 「安全保障のジレンマ」で、冷戦時代に逆戻りし、際限のない軍拡競争に突入するのは目に見えている。

 核兵器使用のハードルが心理的にも低くなり、「使える核兵器」が現実のものとなれば、報復の応酬で核戦争の恐怖に襲われる世界が出現することになる。

 核兵器は壊滅的な被害をもたらす。非人道的で「絶対悪」の兵器である。ヒロシマ、ナガサキの悲劇が物語っていることだ。

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 新指針はトランプ大統領の「力による平和」を反映したものである。

 「核なき世界」を掲げて核兵器の役割を減らすことを目指したオバマ前政権時代の2010年方針からの大きな転換である。

 国連に加盟する圧倒的な国・地域が賛成して昨年7月に採択された核兵器禁止条約は核兵器の使用や開発、実験、製造、保有のみならず「使用をちらつかせる脅し」も禁じている。新指針は「非現実的な期待に基づいている」と同条約を否定。あらゆる核実験を禁じる包括的核実験禁止条約(CTBT)批准も支持しない考えを明記している。

 世界が求める核軍縮の流れに逆行し、核保有国に核軍縮交渉を義務付けている核拡散防止条約(NPT)を形骸化させるものである。核開発や核拡散を巡り、世界を不安定化させる懸念が広がる。

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 日本が米国の「核の傘」の下にあるのは現実だが、人類史上初の戦争被爆国として、核廃絶に向けて国際社会の先頭に立つ責務がある。

 河野太郎外相が新指針を「高く評価する」と談話を発表したのは被爆者の心を踏みにじるものというほかない。

 日本は核兵器禁止条約にも参加していない。米国の危険極まりない新方針にブレーキをかける努力をするのが被爆国として役割ではないのか。日本が主導して国連で採択されてきた核兵器廃絶決議の賛成国が昨年は減少した。「米国追従」だけでは国際的な信用を失うばかりだ。