本書の表題、パイパテローマとは八重山諸島の最南端、波照間島のそのまた南(パイ)にある理想郷(ユートピア)、すなわちどこにもない島のことである。

あすら舎・1620円/ささき・かおる 1936年東京都生まれ、那覇市在住。詩集『潮風の吹く街で』『ディープ・サマー』ほか

 ところで佐々木さんはあの60年安保闘争の時、東大付属看護学校の学生でありかなりの活動家であったようだ。改訂安保条約は成立し若い彼女は当時の情況に絶望し、いわば日本と訣別(けつべつ)するつもりで沖縄へ脱出してきたのであった。しかし最初に見た沖縄の政治風景は「悲願・日本復帰」のデモ行進であったのだ。佐々木さんの詩作の底にはいつもこの時のショックが潜んでいる。「脱出とその不可能」というテーマのことだ。

 さて今回は波照間島の住民が首里王府の圧制に耐えかねてついに島抜けを決意しパイパテローマ目指し南海に乗り出したという伝説をモティーフとしている。これは佐々木さんが沖縄に来て以来の歳月が佐々木さんに強いた認識であり決意なのだ。すなわち佐々木さんは脱出は不可能。この沖縄全体をパイパテローマ化する以外ないと決意したのである。「島は覚悟である」「島は孤立無援の流刑地」「島はわたしが生きる根拠」などの詩行がそれを如実に表している。

 そして歳月は佐々木さんの中にさまざまな生活とさまざまな心が染み込んだ強靱(きょうじん)な言葉を育て、それを蹂躙(じゅうりん)する者への激しい怒りを醸成する。「島とはわたしの悲しみの器」「-島、わたしのシャングリラ」「指についた砂の匂い/しみじみと 風化してゆく/わたしの匂い」。そして怒りは直叙法だ。「絶滅をころげまわる七転八倒/息たえだえの狂乱狂舞を見て見ぬふり/粛々と 粛々と この惨劇を決行するのは誰か」「海底マントルは暴発寸前!」

 詩人は書く。「誰もが自分の内部にひとつの島を抱えている。決して他に侵食されない一個のコア、感情も思考もひっくるめて自分の最後の砦…」と。本書はまさしくその砦から発せられた、佐々木さんという人格と沖縄の歴史が極印された激しく美しい全うな詩集である。(八重洋一郎・詩人)