仲間由紀恵が主演を務める「放浪記」(菊田一夫作、三木のり平潤色、北村文典演出)の東京公演が10月14日から11月10日まで、千代田区のシアタークリエであった。故・森光子が初演(1961年)以来、約半世紀をかけて2千回積み重ねてきた舞台に、仲間は喜怒哀楽を詰めこんだ演技で臨み、その第一歩を記した。9日の舞台を見た。(村井規儀)

カフェーの女給で踊る芙美子(仲間由紀恵、手前)。時代背景が伝わってくるシーンでもある=東京都・シアタークリエ(東宝演劇部提供)

絞り出すように、詩を書き続ける理由を語る芙美子(仲間由紀恵)(東宝演劇部提供)

カフェーの女給で踊る芙美子(仲間由紀恵、手前)。時代背景が伝わってくるシーンでもある=東京都・シアタークリエ(東宝演劇部提供) 絞り出すように、詩を書き続ける理由を語る芙美子(仲間由紀恵)(東宝演劇部提供)

 「放浪記」は作家・林芙美子の自伝的小説をもとに、貧乏と絶望に苦しみ、愛を求めては裏切られる主人公を文学活動と絡めて描く。

 第一幕・二幕では幾つもの芙美子を演じる仲間が印象的だった。伊達春彦(浅野雅博)の妻、カフェーの女給、女給部屋での芙美子とシーンが変わるごとに声の張りや所作に微妙な違いをみせ、心境の変化を乗せた。土建業の親分・田村(田口守)にたんかを切るときよりも、女給部屋で詩を書く理由を話す場面が迫力を持って迫ってくる。舞台が転換して、古里で初恋の相手・香取(佐野圭亮)と出会う第三幕では、鮮やかすぎる履物の赤い鼻緒が芙美子の居場所がここではないと伝えてくるようで、演出の妙を感じた。

 「放浪記」の代名詞ともなった、森光子の「でんぐり返し」を含む第四幕。ついに自分の作品が雑誌に掲載され、喜ぶ芙美子。仲間はでんぐり返しではなく「側転」で喜びの爆発を表現した。エンターテインメント面での最大の見せ場に観客は拍手喝采し、「これがっ」「側転だね」とさざめく。その直後に、生活を共にしてきた悠起(福田沙紀)が体を売って金を工面したことを芙美子が知り、悠起をひっぱたく場面が続く。喜びから一転しての驚きと怒り、困惑が交じる感情を仲間は表現しきれたか。会場の雰囲気が一気に締め直されたことから、それは明らかだった。

 約20年の月日が流れ、作家として大成した芙美子を描く第五幕で舞台は幕を閉じた。

 「放浪記」は21日から大阪(新歌舞伎座)、12月18日からは名古屋(中日劇場)、来年1月7日から福岡(博多座)での全国公演がある。