女性では血液検査のヘモグロビン、11グラム/dl以下を貧血として、鉄剤を処方するか、鉄分の多い食物を多くとるよう指導する一方、貧血の原因を調べる。ところが最近ヘモグロビン値は正常でも鉄不足があるとされる、いわゆる隠れ貧血が注目され、鉄不足の分かりにくいケースが東洋医学会で話題になった。隠れ貧血の症状は、疲れやすい、疲労回復が遅い、動悸(どうき)、息切れ、冷えなどで、漢方でいわゆる気虚(ききょ)、さらに冷えの程度の強い場合を陽虚(ようきょ)としている。

 気虚や陽虚はいわばエネルギー不足のことである。気虚と鉄不足の関係は、食べた食物を体の中で酸素で燃やしてエネルギーを作り出す代謝の過程を見るとわかりやすい。

 まず酸素を肺から取り入れ体の隅々に運ぶとき、赤血球のヘモグロビンの鉄が酸素の運び屋となる。ヘモグロビンが不足すると組織の酸素不足で細胞での燃焼効率が悪くなりエネルギー不足となる。

 もう一つの鉄の働きは細胞の中でグルコースが分解されATPというエネルギー物質を合成する過程に関わっている。貯蔵鉄が十分にあると一つのグルコースから38個のATPが作られるところを、鉄が不足すると2個しか作られない。つまり鉄不足ではエネルギー効率が極端に悪くなり、気虚や陽虚の症状が現れる。

 漢方では気、血、水という仕組みで病気を考えるが、鉄不足は貧血になり漢方では血虚(血の巡り不足)となる。ATP産生の低下はエネルギー不足の気虚になる。すなわち漢方の気、血の二つの働きに鉄不足が直接関係している。さらに水が循環するのは気の働きによるので、エネルギー不足では水が停滞しむくみが起こってくる。つまり鉄不足は気、血、水すべての働きに影響を及ぼしてくる。従って気虚や陽虚の漢方薬を処方する場合、常に鉄不足が絡んでいないか注意する必要がある。

 隠れ貧血の目安とされる赤血球平均容積(MCV)90以下の人のフェリチンを測定したら、臨床的に望ましいとされるフェリチン値50より低い値を示す人が少なからず見つかり、中には一桁の人も少なくなかった。そうした人に鉄剤を投与すると疲れにくい、息切れしない、階段を休まずに登れる、よく眠れる、何となく元気になったなど、漢方薬の効果に加えてさらに症状の改善がみられた。また四逆湯という附子(トリカブト)の入った処方で極端な冷え症すなわち陽虚がよくなった人に鉄剤の内服を加えると、車のギアが切り替わるような明らかな元気の変化があると教えてくれた。

 特に毎月の生理で鉄分を失う女性や妊婦では漢方薬に加えて隠れ貧血、すなわち貯蔵鉄チェックも必要であると改めて痛感した。(仲原靖夫 仲原漢方クリニック)