伝統芸能は最初から伝統だったわけではない。当然の話だが、どんな作品でも誕生した時は新作だった。作者も功成り名を遂げた重鎮ばかりではなかった

▼例えば組踊。中国からの使者・冊封使の前で「執心鐘入」を披露した時、玉城朝薫は30代半ば。琉球歌劇「伊江島ハンドー小」が舞台に乗ったのは、作者の真境名由康が35歳の時だ

▼伝統に活力を与え、魅力を加えるのは若い世代に求められる役割の一つ。その期待に応えようと奮闘するのが、先日松尾芸能賞新人賞を受賞した国立劇場おきなわ芸術監督で、実演家の嘉数道彦さん(38)

▼本紙芸能面で2007年に連載した新作組踊「十六夜(いざよい)朝顔」の内容を吟味するため、伝統芸能のご意見番だった故崎間麗進さん宅を嘉数さんと訪ねた時のこと。同行した若手実演家が唱えと歌三線を披露した後、指摘を受ける表情に作家の気概と責任感の強さを感じたことを覚えている

▼「十六夜朝顔」は08年に桜坂劇場で初演。12年には東京の国立劇場の舞台を飾り、高い評価を受けた。16年には上演約3時間という大作「初桜」を仕上げ、波に乗っている

▼来年は組踊という新ジャンルが生まれて300年の節目の年になる。受賞の報に「今後も精進したい」と答えた嘉数さん。沖縄芸能の歴史に、どんな新たな息吹を吹き込んでくれるのか楽しみだ。(玉城淳)