政府・自民党内から「共謀罪」の新設を求める声がまたしても出てきた。パリ同時多発テロの直後のタイミングであり、テロの不安に便乗しているというほかない。

 萩生田光一官房副長官は22日の報道番組で「必要である」との認識を示した。口火を切ったのは自民党の高村正彦副総裁と谷垣禎一幹事長。谷垣氏は17日の記者会見で「来年は日本で主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を行う。情報がないと、十分な対応はしにくい」と、共謀罪を新設するための組織犯罪処罰法の改正に意欲を示した。

 共謀罪は、具体的な犯罪について2人以上が話し合うだけで処罰することができる。

 犯罪行為があって初めて罰するのが刑法の大原則である。日弁連が指摘するように、思想ではなく行為を処罰するという刑法体系の基本原則に矛盾する。思想の自由を保障した憲法にも反する。

 政府はこれまで共謀罪を新設するため組織犯罪処罰法改正案を国会に3回提出したが、いずれも廃案になっている。世論の強い反対にあったためだ。

 政府が示したこれまでの改正案では、共謀罪の適用を想定している犯罪は600を超える。組織犯罪とは関係があるとはとても思えない窃盗罪の万引や詐欺罪の釣り銭詐欺なども含まれている。

 市民団体や労働団体にも適用される恐れがある。捜査当局による恣意(しい)的な運用がなされる懸念が拭えない。自由な市民生活に捜査当局が介入し監視社会をつくることにつながるのは間違いない。

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 国連で2000年に「国際組織犯罪防止条約」が採択され、日本も署名した。政府は批准するためには共謀罪の新設が必要だと説明する。これに対し、日弁連は、日本では組織犯罪集団の重大な犯罪は現行法でも、実行する前に処罰することができ、共謀罪を新設しなくても条約の批准ができると反論している。

 共謀罪では会話や電話、メールの内容そのものが犯罪となる。犯罪捜査のあり方も必然的に変わる。電話やメールを傍受できる対象を増やし、通信事業者の立ち会いを不要とする。共犯者の犯罪を解明するのに協力すれば起訴を見送る司法取引をする。

 これら通信傍受の対象の拡大などを盛り込んだ刑事訴訟法などの改正案が通常国会で衆院を通過、参院で継続審議となっている。

 共謀罪を前提とした法改正が進められているのである。

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 共謀罪は戦前の治安維持法を想起させる。戦時下の最大の言論弾圧事件である「横浜事件」は、特高が出版関係者の私的な温泉旅行を共産党再建のための謀議の会議とでっち上げ、約60人を逮捕、30人以上が起訴され、拷問で4人が獄中死した。うその自白を強要された冤罪(えんざい)だった。

 共謀罪の必要性で一致する政府・自民党幹部は来年の通常国会には提出しないという。時期を見極めているのだろう。2年前に秘密保護法が強行採決された。通信傍受の対象が拡大され、共謀罪の新設と続くと、国家監視社会が出来上がる。強く危惧する。