◆第2部 起業を育む 県産業振興公社

 1月19日、沖縄国際大学で開かれたセミナー。県産業振興公社でベンチャー企業スタートアップ支援事業を担当する大西克典ハンズオンマネージャー(55)は特別な思いで見つめていた。

起業思考を身に付けてもらおうと開いたセミナーに詰め掛けた大勢の若者ら=1月19日、宜野湾市の沖縄国際大学(県産業振興公社提供)

 セミナーは同公社などが主催し、プレゼンテーション力について学ぶものだったが、実は別の狙いがあった。講師の生き方を通じ、若者らに起業への思考力を身に付けるきっかけをつくることで、次世代ベンチャーへの種をまくことだった。

 集まったのは起業に興味を持つ学生や若者たち約270人。大西氏は「数年前まで、セミナーを開いても数十人しか来ず、高齢者の参加も目立っていた。沖縄にベンチャー思考を持った人が増えつつある」と振り返る。

 同公社が県の委託を受け、革新的なビジネスプランで短期間での急成長を目指すベンチャー企業スタートアップ支援事業を始めたのは3年前。それまではいわゆる中小企業の創業支援で、上場企業を目指すなど世界も視野に入れたものではなかったという。

 成長が見込める企業を採択し、事業計画の策定や資金繰り、販路開拓など、専門家が2年間かけて手厚くアドバイスする。セミナーも行い、起業への意識付けから会社の立ち上げなど、一貫した支援を行っている。これまで採択した企業は27社で、商品バーコードから読み取る情報を多言語に変換するアプリを開発した「Payke(ペイク)」や、求人情報サイトを運営する「びねつ」など県内外で注目を集める企業も出てきた。

 同公社によると、行政がスタートアップに力を入れているのは沖縄以外に福岡や東北など全国でも数少ないという。沖縄は新規開業率が全国でもトップクラス。起業に対する抵抗感が低いことに加え、那覇空港の国際貨物ハブ事業の活用でアジア展開など、ベンチャー企業が次のステップに進みやすい環境にある。

 同事業の開始に伴い、外資系の投資銀行の勤務経験がある大西氏が専門家として就任。大西氏の人脈をいかし、県内ベンチャーと国内外で活躍する投資家との橋渡しなどを行っている。既に東京の投資家などから3件の資金調達にも成功した。

 びねつの高嶺克也社長は「採択以前は片っ端から投資家に電話しても門前払いだった。大西氏に顧客や投資家を紹介してもらい、企業価値を高めることができた」と話す。大西氏は「沖縄は基地問題や貧困、離島苦、台風被害など克服するべき課題が多い。アジアと環境が似ている沖縄で成功すれば、一気に海外展開できる可能性もある」と述べた。(政経部・下里潤)