役場の町内移転をめぐる竹富町の半世紀に及ぶ取り組みに、ようやくゴールが見えてきた。「地方自治は民主主義の学校」といわれるが、それを地でいくような興味尽きないケースである。

 「西表島大原地区」か、現在地の「石垣市内」か。竹富町役場の建設場所を問う住民投票は30日開票され、「西表島大原地区」への移転が過半数を占めた。

 投票資格者3296人のうち投票したのは2645人で、投票率は80・25%。「西表島大原地区」を支持したのは1459票、「石垣市内」が1140票で、その差は319票だった。

 竹富町役場は1938年に利便性を理由に石垣市に移されたが、63年に西表島への移転案が町議会で可決され、2002年度には町が西表島大原地区の国有地を取得した。町が設置した「新庁舎あり方検討委員会」も7月、西表島移転を提言していた。

 石垣市には役場職員の約7割に当たる95人が居住しているという。竹富町の職員でありながら石垣市在住の石垣市民として石垣市に税金を納めるというのはやはり変だ。

 町内移転は本来あるべき姿に戻ることであり、よその自治体の軒下を借りる「ヤドカリ(宿借り)行政」からの脱皮を意味する。

 筋論として町内移転は妥当だと思うが、その前提に立って強調したいのは「少数派尊重」の重要性である。石垣市を選んだ人々の選択理由は切実であり、その声を軽視すれば町内移転計画は頓挫し、混乱を招くおそれがある。

    ■    ■

 町内移転が過半数を占めたのは、筋論が通ったという側面だけでなく、別の理由もある。投票資格者の過半数が西表島に住んでいること、石垣市在住の役場職員には投票権が与えられなかったこと、などである。

 「石垣市内」を選択した1140票は、無視できない重みを持つ。

 町内には九つの有人島がある。海上交通網は、八重山諸島の中心地である石垣市と島々をつなぐ形で整備されているが、西表島と他の小さな島々をつなぐ船便は少ない。

 買い物や学校、医療などの面で市内に町役場があったほうが何かと便利だと指摘する住民は少なくない。

 地方自治法によると、庁舎の設置場所を変更するため条例を改正する場合、町議会において出席議員の3分の2以上の同意が義務づけられている。ハードルは依然として高い。

    ■    ■

 町内移転を実現するためには、何よりも優先して海上交通網を改める必要がある。「新庁舎あり方検討委員会」が指摘したように、住んでいる島で居ながらにして行政サービスが受けられる新たな仕組みづくりも不可欠だ。

 西表は栄え他の島々は過疎化が進むという「一人勝ち」ではなく、島々が人口を維持しともに発展していく道筋を町民が自ら作り出すことが重要である。

 竹富町は17年度庁舎着工をめざすが、基本計画・実施設計にどのような内容を盛り込むかがカギになるだろう。