「この裁判で問われているのは、単に公有水面埋立法に基づく承認取り消しの是非だけではありません」「日本には本当に地方自治や民主主義は存在するのでしょうか。沖縄県にのみ負担を強いる今の日米安保体制は正常といえるのでしょうか」

 名護市辺野古の新基地建設に伴う埋め立て承認の取り消しを違法として、国が翁長雄志知事を相手に起こした代執行訴訟の第1回口頭弁論が福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)で開かれ、翁長知事が意見陳述した。

 国と県の異例の法廷闘争の始まりである。翁長知事の意見陳述は約10分と短かったが、住民を巻き込んだ沖縄戦や戦後70年続く基地負担に対する県民の大多数の思いを凝縮し分かりやすく伝えた。

 開廷前には近くの公園で翁長知事を後押しする2千人(主催者発表)の集会が開かれ、「県民の思いを胸に、しっかり沖縄の主張をする」と決意表明していた。

 冒頭に引用した翁長知事の言葉は、戦後沖縄の基地形成をめぐる歴史を踏まえ、米軍基地の過重負担、日本の民主主義を問う発言だ。

 戦後、沖縄は本土とは全く違う道を歩んできた。県民が収容所に入れられている間に米軍に強制的に土地を接収され、「銃剣とブルドーザー」によって土地を奪われた。

 1952年にサンフランシスコ講和条約で日本から切り離され、沖縄は米軍施政権下に置かれた。日本国憲法の適用もなかった。

 米軍基地の過重負担は、戦後70年たったいまも、国土面積の0・6%しかない沖縄県に73・8%の米軍専用施設が集中している現状が物語る。沖縄と本土の極端な不均衡は何も改善されていない。

 それなのに今度は政府が新基地建設を強行しようとしているのである。こんな理不尽なことはない。翁長知事が言うように「米軍施政権下と何ら変わりない」のである。

 選挙は民主主義の根幹を成すとともに、民意の表出である。昨年の名護市長選、知事選、衆院選と相次いだ選挙は辺野古新基地に反対する候補がすべて勝利した。

 一連の選挙の争点は前知事が埋め立て承認をしたことに対する審判だった。知事選で10万票の差で翁長知事が誕生し県民の明確な意思が示されたにもかかわらず、新基地を押し付けてくるのは民主主義国家といえない。

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 翁長知事の問いかけは、本土側の無理解や誤解にも向けられた。基地経済と沖縄振興策に対し「沖縄は基地で食べているんでしょう。だから基地を預かって振興策をもらったらいいですよ」という本土の人や政治家の言葉に反論した。米軍基地関連収入が県経済に占める割合は約5%にすぎず「今や沖縄経済発展の最大の阻害要因」と言い切り、米軍返還跡地の飛躍的な経済効果を具体的なデータを挙げて示した。翁長知事は「都道府県で国に甘えているとか甘えていないとかと、いわれる場所があるでしょうか」と疑問を投げかけた。

 代執行訴訟で県は国に訴えられている形だが、新基地建設をめぐる政府のやり方を翁長知事が厳しく問うているのである。被告席に座っているのはむしろ国である。

 意見陳述で翁長知事が「今の状況は、国内外から日本の真の独立は神話であると思われているのではないでしょうか」と指摘する通りだ。

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 弁論で国側は「取り消しは例外的な場合しかできず違法である。日米関係に大きな不利益が生じる」などと主張している。県側は「民意に反して新基地建設を強行することは自治権を侵害し憲法違反である」「公有水面埋立法は外交や国防といった要素を特別扱いしない」などと正当性を訴えている。

 翁長知事は意見陳述の最後に裁判所に「沖縄、そして日本の未来を切り拓(ひら)く判断をしてほしい」と要望した。

 県側は稲嶺進名護市長や環境、安全保障の専門家ら8人を証人申請している。民主主義、地方自治、環境、抑止論など論点は多岐にわたる。

 福岡高裁那覇支部は形式的な審理にとどまらず、これらの論点にも踏み込み、実質的な審理をしてもらいたい。