第1 本準備書面について

名護市辺野古の埋め立て承認をめぐる「代執行訴訟」の第1回口頭弁論に出廷し、開廷を待つ国の原告団=2日午後1時58分、福岡高等裁判所那覇支部の第201号法廷(代表撮影)

 御庁(福岡高裁那覇支部)より平成27年11月18日付けで送付された、別紙「平成27年(行ケ)第3号事件原告への釈明事項」につき、以下のとおり回答する。

 第2 釈明事項に対する回答

 1 釈明事項1について

 被告がした平成27年10月13日付け本件取消処分は、本件承認処分を取り消すというものであり、平成26年12月5日付の変更承認処分は本件取消処分の対象となっていない。

 したがって、原告としては、平成26年12月5日付けの変更承認処分は本件取消処分の対象外であると理解している。

 2 釈明事項2について

(1)御庁提示の見解について

 原告は、訴状に記載したとおり、授益的処分をした行政庁が自らその違法又は不当を認めて、これを取り消すためには、最高裁昭和43年判決が示したとおり、「処分の取消によって生ずる不利益と、取消をしないことによってかかる処分に基づきすでに生じた効果をそのまま維持することの不利益とを比較考量し、しかも該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限り、これを取り消すことができる」との枠組みで、本件取消処分の適否が判断されるべきと考えるものである。

 御庁から、行政処分に瑕疵(かし)があれば原則として自庁取消権が発生し、例外的に自庁取消権が制限されるとの見解が示されているが、行政処分に瑕疵があっても原則として自庁取消権は発生せず、極めて例外的な場合に限り、自庁取消権が発生するものと解される。

 このような考え方に基づいて、最高裁昭和43年判決は自庁取消権が発生する極めて例外的な場合を示したと解するのが相当である。東京高等裁判所平成16年9月7日判決は「一般に、行政処分は適法かつ妥当なものでなければならないから、いったんされた行政処分後にそれが違法又は不当なものであることが明らかになった場合には、法律による行政の原理又は法治主義の要請に基づき、行政行為の適法性や合目的性を回復するため、法律上特別の根拠なくして、処分をした行政庁が自ら職権によりこれを取り消すことができるというべきである」と述べるところ、これは行政処分を行った行政庁が自らそれを取り消すことができる理論的根拠は法律による行政の原理又は法治主義の要請である。

(2)御庁提示の見解を前提とした主張の整理

 原告としては、最高裁昭和43年判決が示した判断基準に従って、具体的な処分の取消しが可能か否かが定まると考えるが、一応、御庁提示の要素について、それぞれ箇条書きで簡略に整理すると以下のとおりである。

 ア 行政行為の相手方等の信頼保護の必要性

 (ア)取消権行使の結果として相手方が蒙る不利益の具体的状況

 (1) 普天間飛行場の早期移設が実現できないことによって、同飛行場の周辺住民等の生命・身体に対する危険除去の速やかな実現ができなくなる不利益

 (2) 平成8年に日米間で普天間飛行場を我が国に返還する旨の合意が整い、平成11年に同飛行場の代替施設を辺野古沿岸域に建設することを閣議決定し、平成14年に政府並びに沖縄県及び名護市との間で移設工事を埋立工法で行うことを決め、平成25年12月に本件承認処分に至った。長きにわたる日米両国等において積み上げてきた努力が、我が国側の一方的な行為によって無に帰す有形無形の膨大な不利益

 (3) 国家間の約束事を実現できず、今後の諸外国との外交関係の基礎となるべき、国際社会からの信頼の低下などの我が国が受ける不利益

 (4) 普天間飛行場に比して大幅に規模の縮小した本件代替施設等を辺野古沿岸域に建設するという計画が頓挫することによって、沖縄県の負担軽減を進められなくなる不利益

 (5) 普天間飛行場返還後の跡地利用によって得られたはずの年間約3700億円(沖縄県の推計)にも上る直接経済効果が得られなくなり、宜野湾市、ひいては沖縄県の経済発展が阻害される不利益

 (6) 国は、本件埋立事業のために、平成18年度から平成26年度末までに当初契約金額で約900億円もの契約を締結し、そのうち約473億円を既に支払っており、平成27年度も約1736億円の予算を計上しており、このうちの契約済額の一部も無駄になるおそれがある経済的な不利益

 (7) なお被告は上記各不利益に対する緩和措置を何ら講じていないので、国及び国民に有形無形の膨大な負担を課すことになる

 (イ)第三者に及ぶ影響

 国は、本件埋立事業のために平成18年度から平成26年度末までに当初契約金額で約900億円もの契約を締結し、平成27年度に予算を計上した約1736億円のうち一部の契約を締結しており、民間業者等に対し法的や経済的な悪影響が及ぶ不利益

 (ウ)当初の行政行為に瑕疵を生じさせた原因が何か

 本件承認処分には瑕疵がない。仮に瑕疵があったとすれば、承認権者としての審査事務を誤ったということになるのであり、本件承認処分の相手方である国の責めに帰されるものではない。

 (エ)当初の行政行為の根拠法令の趣旨や諸規定に照らし、瑕疵ある行政行為の取消が許容されるべきであるのか

 埋立承認処分の安定性・信頼性を早期に確保し、当該埋立承認を前提として形成された公の秩序に対する国民の信頼を保護する要請は特に強い。すなわち、公有水面埋立法は32条において、行政庁による取消し又は撤回が認められる場合を制限している上、工作物等の除去命令といった取消し又は撤回以外の措置を採ることを可能とし、もって一度なされた処分の法的安定性を確保することとしている。承認も免許もその法効果は同一であるから、一度なされた処分の法的安定性を確保するという上記趣旨は同様に妥当する。

 イ 瑕疵ある行政行為を放置することによる行政上の不利益

 本件承認処分には瑕疵がないから行政上の不利益はないし、仮に瑕疵があったとしても、辺野古周辺住民の騒音被害については、本件代替施設等の滑走路が海上に設置されることや、自然環境に対する環境保全措置が講じられることなどによって十分な配慮がされているから、承認処分を放置することによる不利益は極めて小さい。

 ウ 比較考量

 上記アが上記イに勝ることは明らかであるから、本件承認処分の取消権の行使をすることができないことになる。

 釈明事項3について

 (1)法4条1項1号の要件の審査において、都道府県知事は国防上の必要性や外交上の必要性に関して審査判断する権限はないことについて

 ア 我が国の国防や外交などといった一国の将来の在り様を決め、また我が国の存立や国民の身体、生命、財産の安全確保といった国防上、外交上の事項について、我が国の組織法上、都道府県知事にその内容や必要性の有無等を審査判断をする権限は与えられていないことは明らかである。

 また法は、国土交通省が所管する法律であるが、我が国における米軍施設及び区域の配置場所などの事項については、閣議等を経て、国として決定されるべき事柄であって、国土交通大臣が決められるものではない。米軍施設及び区域の配置場所といった事項に関し、我が国の国防上、外交上の必要性等について審査し、当該埋立てが「国土利用上適正且合理的」といえるか否かを判断できる権限を法によって与えられていないことも明らかである。

 法4条1項1号適合性に関して、これらの点について、都道府県知事の審理判断の内容やその適否の判断に際し、裁判所が審査判断することもできないと解するほかない。都道府県知事は、同号の審査に当たって、公有水面埋立ての申請があった対象区域について、その埋立てが国土利用上適正かつ合理的といえるか否かを審査判断する権限のみを有するというべきであり、申請のあった埋立地以外に、他の都道府県等に埋立ての適地があるか否かを審査することは法の想定するところではない。

 ウ 当該米軍施設及び区域の配置場所を国防上、外交上の見地から辺野古沿岸域とすることは、専ら国によって決定されるべき事項であって、沖縄県知事がこれを審査判断する権限を有しないというべきであり、他方、沖縄県知事は、法4条1項1号適合申請の判断に当たって、埋立ての対象とされる区域について、その利用目的の公共性の有無等を「国土利用上適正且合理的」かどうかを判断する一要素として審査判断できるにすぎないと解すべきである。

 (2)釈明事項2の(2)の判断における「公益侵害」や代執行訴訟の要件としての「著しく公益を害する」ことの評価に際し、国防上、外交上の事由が裁判所の審査対象となるかという点について

 御庁の御指摘のとおり、釈明事項2の(2)の判断における「公益侵害」や代執行訴訟の要件としての「著しく公益を害する」ことの評価に際し、国防上、外交上の事由は、裁判所の審査対象になると解する。

 4 釈明事項4について

 (1)法4条1項1号について

 法4条1項1号は、申請のあった埋立てが「国土利用上適正且合理的ナルコト」を承認(免許)の要件とするものである。同要件は、それを判断する承認(免許)権者にいわゆる要件裁量を相当程度広範に認める趣旨であると解され、御指摘の文献にあえて当てはめれば裁判所による裁量統制密度は低くなる場合に当たるといえよう。

 (2)法4条1項2号について

 法4条1項2号は、申請のあった埋立てが「環境保全及災害防止二付十分配慮セラレタルモノナルコト」を承認(免許)の要件とするものである。この判断に当たっては、事業者が埋立地周辺の環境の問題の現況及び埋立てによる影響を的確に把握した上でこれに対する措置を適正に講じているかの審査を求めるものであると解される。そして、「環境保全」に「十分配慮」したといえるかの判断は専門技術的な知見を要するものであり、それ自体、専門技術的知見を踏まえた価値判断を含むものであることからすると、同要件は、それを判断する承認(免許)権者にいわゆる要件裁量を相当程度広範に認める趣旨であると解される。

 判断過程において、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠き、又は事実に対する評価が明らかに合理性を欠くことなどにより、その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となると解するのが相当である。

 前知事の判断に、重要な事実の基礎を欠くとか、その判断内容が社会通念に照らし著しく合理性を欠くといった事情を認める余地はなく、上記見解のいう判断過程に看過し難い過誤、欠落があり、結論に影響を与えた具体的可能性があるような場合とも認められない。

 5 釈明事項5について

 (1)取消処分の理由第1.1(3)及び同2(3)について

 被告が本件承認処分の取消理由として「全国の在日米軍専用施設の73・8%が沖縄県に集中して他の地域との著しい基地負担の格差が生じている」ことから、そのような状況にある沖縄県に「新たに米海兵隊航空基地を建設することは、この沖縄県における過重な基地負担や基地負担の格差を固定化するものであり、その不利益は顕著なもの」であり、本件承認処分に際して、かかる不利益を適切に考慮しないまま法4条1項1号に適合するとした判断過程は合理性を欠いている、と指摘するものである。しかしながら、かかる被告の指摘には、以下のとおり理由がない。

 ア そもそも、米軍施設及び区域の配置は、重要な政策判断事項であって、その決定は、内閣ないし日米両政府間において決定されるべき事項であり、都道府県知事がその決定をすることはあり得ない。

 被告の指摘するような米軍施設及び区域が沖縄に多く存在するといった事情も含め、内閣ないし日米両政府において決定すべきことである。

 イ 辺野古沿岸域において埋立てられる面積は約160万平方メートルであり、普天間飛行場の面積の約3分の1以下で、米軍施設・区域の面積が減少することになる。さらに、本件代替施設等には普天間飛行場において米軍海兵隊が有する機能のうち、オスプレイなどの運用機能のみが移転されるなど、普天間飛行場が全面返還される結果、沖縄県全体からみた負担が軽減することは明らかである。

 (2)取消処分の理由第1.2(1)(1)について

 取消処分の理由第1.2(1)(1)において、被告は「「埋立ての必要性」の審査については、(1)本件審査結果において「普天間飛行場移設の必要性」から直ちに本件埋立対象地での「埋立ての必要性」があるとしたことに論理の飛躍(審査の欠落)がある」と指摘している。しかしながら、かかる被告の指摘にも、以下のとおり理由がない。

 ア 被告の上記指摘は、要するに「普天間飛行場移設の必要性」は認められるが、本件埋立地に係る「埋立ての必要性」が認められないから、前知事の判断過程に「論理の飛躍(審査の欠落)」があるとするものである。確かに、普天間飛行場の危険性を除去する必要性から、その移設のために辺野古沿岸域を埋め立てる必要性が、当然の論理的帰結として導き出されるものではない。

 米軍施設及び区域としての機能をどこにどのように移転するのかという判断は、専ら国によって決定されるべき事項であり、都道府県知事に判断権限はない。したがって、普天間飛行場の危険性除去の必要性から、本件埋立事業の必要性を認められるとした前知事の判断に「論理の飛躍(審査の欠落)」があるとする被告の主張は当たらない。

 イ 同第1.2(1)(1)において被告が指摘する、審査基準にいう「埋立ての必要性」「周辺の土地利用の現況からみて不釣り合いな土地利用となっていないか」「埋立ての規模及び位置が適切か」という基準についていえば、埋立承認が法定受託事務として都道府県知事の事務とされたのは、当該地方の実情に詳しい都道府県知事の判断に委ねるのが合理的と考えられたからである。

 本件をみた場合、辺野古沿岸域は、古来の景勝地や住宅密集地でもなく、むしろ、キャンプ・シュワブとして米国に提供されている場所及びこれに隣接する水域であること、当該水域についても既に一定の漁業制限等がされていること、滑走路は海上にV字型に建設され航空機事故の危険や騒音被害については最小化が見込まれていること等に鑑みれば、当該水域の海浜等と地域社会との関わりや周辺の土地利用状況から、これが法4条1項1号に適合し、前知事の判断が合理的なことは明らかである。

 6 釈明事項6について

 我が国の国防や外交という国政にとって極めて重大な事項については、閣議等を経て、国として決定すべき事柄であって、都道府県知事の権限が及ばないものと解される。

 これは国家の存立に関わる国防や外交といった事務については、専ら国が行い、地方公共団体あるいは都道府県知事にこのような事務を行う権限がないことを示すものである。また、法51条1項及び42条1項は、都道府県知事による埋立承認を第1号法定受託事務とし、都道府県知事に埋立承認権限を付与しているところ、法は国土交通省が所管するものである。

 7 釈明事項7について

 法4条1項1号の要件を具体化する関係法令は存在しないが、運用上、「埋立てそのもの及び埋立地の用途が国土利用上適正かつ合理的であるかどうかにつき慎重に審査すること」とされている。

 8 釈明事項8について

 (1)法3条1項は、都道府県知事に地元市町村長の意見を聴取することを義務付けるものである。埋立てにより著しい影響を受ける隣接市町村長に対して、特に必要があると認められるときは、その意見を聴取することを否定するものではないとされている。聴取された意見の取扱いについては特に規定はなく、承認(免許)権者を拘束するものではない。承認(免許)権者が申請を審査するに当たり、同意見を考慮するか否かも承認(免許)権者の裁量に委されている。

 (2)また、同3項は、埋立てに関し利害関係を有する者は都道府県知事に意見書を提出することができる旨を規定するものである。ただし、単に関心を有するに過ぎない者は利害関係者に該当しないとされている。提出された意見書の取扱いについては特に規定はなく、承認(免許)権者を拘束するものではない。承認(免許)権者が申請を審査するに当たり同意見を考慮するか否かも承認(免許)権者の裁量に委されている。

 また、運用上、申請のあった埋立てが港則法又は海上交通安全法の適用区域内で行われる場合であって、船舶交通に危険を及ぼすおそれがあると認められるときは、あらかじめ、所轄の海上保安部長等の意見を求めることとされている。

 (3)前知事は、本件承認処分に当たり、法3条1項に基づき、願書及び関係図書を縦覧に供し、利害関係者から、縦覧期間内において、3511件の意見書の提出を受け、上記期間外においても、平成25年8月30日までに61件の意見書の提出を受けた。また、前知事は、名護市長に対して意見照会を行い、平成25年11月27日に回答を受理し、上記通達に基づき、関係機関である第11管区海上保安本部中城海上保安部長、沖縄県農林水産部水産課長及び沖縄県環境生活部長に対して意見照会を行い、同年9月30日に上記中城海上保安部長及び上記農林水産部水産課長から、同年11月29日に上記環境生活部長から回答を受理した。

 (4)なお、本件承認処分に当たり、前知事がどのような者のどのような意見をどの程度考慮したかについては、原告は承知していない。

以上