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[木村草太の憲法の新手](75) 法律婚が認める大きな利益、夫婦別姓でも享受を

2018年3月4日 11:55

 民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定め、別姓婚を認めていない。今年1月、サイボウズ社長の青野慶久氏などが、夫婦別姓を認めないのは違憲だと訴訟を提起した。

 過去には、婚姻カップルの96%で妻が氏を変えている事実を強調し、「民法750条は女性差別だ」と国家賠償請求訴訟が提起されたことがある。しかし、最高裁は2015年の判決で、民法750条は、夫の側が氏を変えることも認めており、女性差別ではなく合憲だ、と判断した。

 確かに96%という数字を考えると、女性差別を主張したくなる気持ちも分かる。しかし、氏変更の割合がたとえ男女半々であっても、別姓希望カップルが婚姻できないという問題はそのまま残る。「別姓婚を認めるべきか」と「女性差別」は、分けて考えねばならないだろう。

 では、青野氏らは、何を違憲の根拠としているのか。報道によれば、著名な実業家である青野氏は、婚姻に伴い氏を変更したことで、株式の名義書き換えに数十万円の費用がかかるなどした。これらの費用は、国が別姓婚を認めていないことに起因する損害だとして、国家賠償を請求しているという。その際、原告は、日本人同士のカップルと日本人・外国人のカップルとの区別が不平等で、憲法に違反していると主張している。どういうことだろうか。

 まず、日本人同士で法律婚をする場合、両者に民法750条が適用されるので、氏を統一しなければならない。戸籍法でも、夫婦のいずれかを戸籍筆頭者とする戸籍が作られ、戸籍筆頭者の氏が夫婦の氏となる。

 これに対し、日本人と外国人が法律婚をする場合、日本の民法は日本人にしか適用されず、外国人配偶者には国籍国の婚姻法が適用される(法の適用に関する通則法24条)。つまり、氏を統一する必要がない。また、外国人には戸籍がないので、日本人の夫または妻について、元の氏による単独戸籍が作られる(戸籍法16条3項)。外国人配偶者の氏を名乗りたい場合には、婚姻から6カ月以内に届け出る必要がある(戸籍法107条2項)。

 このように、日本人同士の婚姻では同姓しか許されない一方、日本人・外国人の婚姻では別姓が原則で、同姓も選択できる。この区別が不合理だというわけである。

 では、この主張は妥当か。現在の戸籍は、夫婦は同一の戸籍に入るべしとの「夫婦同一戸籍原則」と、同一戸籍に入る者は同氏でなければならないとの「同一戸籍同氏原則」の2原則に基づき編さんされている。この2原則は、婚姻関係を明確にするという意味では、それなりに合理性がある。

 しかし、原告が指摘する通り、外国人には、この2原則は適用されないまま、法律婚の効果は認められている。このことは、戸籍法の2原則が、法律婚の効果を享受するために必須でないことを示している。

 日本人同士の婚姻でも、夫婦別々に単独戸籍を作ることは容易なはずだ。法律婚には、相続税の優遇措置を受けられるなどのメリットも大きい。別姓を望むカップルにも、法律婚の利益を享受できるようにすべきではないか。(首都大学東京教授、憲法学者)

=第1、第3日曜日に掲載します。

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