自慢じゃないけれど、僕は沖縄で聴く歌や音楽が大好きなヤマトゥンチューのひとりだ。沖縄民謡は古典から新作まで呆(あき)れるほど好きだし(大工哲弘、嘉手苅林昌、登川誠仁、古謝美佐子、知名定男、照屋林助、大城美佐子、山里勇吉、喜納昌吉、あ、もちろんこれはただただ思い出した順番に書き出しているだけの順不同ですからね)、沖縄発のロック(伝説の紫やコンディション・グリーン、喜屋武マリーからモンゴル800に至るまで全部含めて)や、フォークソング(佐渡山豊、まよなかしんや)、ポップ(BEGIN、SakishimaMeeting、りんけんバンド、ディアマンテス)とか、歌謡曲(フィンガー5、南沙織から安室奈美恵)、ラップ(Chico Carlitoとか)を知った。

名護市長選後、2日目。キャンプ・シュワブ海岸では、新基地建設は着々と進む。「K2」護岸では、砕石を海に投入する作業が続いた=2月6日正午過ぎ、名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブ

 30年前、僕はコザ(現在の沖縄市)の小さなライブハウスで聴いた歌が心に突き刺さってくるのを感じた。嘉手納基地のお膝元で幼少期から生きてきた知念良吉さんの人生に裏打ちされた歌に魅了された。

 ああ どこへゆく オキナワンボーイ 
 美しかったものは 泥だらけ
 ああ どこへゆく オキナワンボーイ
 夢まで 用意されていた (知念良吉『どこへゆく オキナワンボーイ』より)

 海洋博後の海洋汚染や石垣空港建設といった出来事が沖縄で語られていた時代のことだ。2018年2月の名護市長選挙の取材で、辺野古の護岸工事がどのような状態になっているのかを海上から船に乗って取材をしていた時だった。この30年以上前につくられた曲が突然僕の頭によみがえってきた。〈美しかったものは 泥だらけ〉

 キャンプシュワブの護岸にはクレーンが林立していて、ショベルカーで土砂が刻々と搬入されていた。その日は悪天候で、護岸工事の作業は規模が縮小されていたのだが、護岸工事の規模自体が去年の6月に海上から取材した際と比べると、とんでもなく拡大していた。沖縄県のいくつかの選挙結果で示された「新基地建設ノー」の民意なんか全く聞く耳をもたないとでも言うかのように、菅義偉官房長官の表現で言えば、「粛々と」工事は進められていたのだった。

 名護市長選挙の結果がどのようになろうとも、新基地建設工事は有無を言わせずに「粛々と」力づくで強行されていたのである。だが、そのあまりにも巨大な新基地建設のプランから考えると、現段階は、まだまだ入り口の入り口に過ぎない。それはまるで、福島第一原発の廃炉作業が、入り口の入り口段階に過ぎないのと似ている。事業主体というものは作業の進捗(しんちょく)状況を誇大に強調したがるものだ。

 もうひとつ、知念良吉さんの歌の〈ああ どこへゆく オキナワンボーイ〉という言葉でイメージに浮かんできたのは、名護市に住んでいる若い有権者たちの選択のことだった。名護市長選挙の勝敗分析で、公明党票約2千票が今回は「稲嶺おろし」に回ったという見方がされたが、もうひとつ重要なことは、4年前の市長選挙では選挙権のなかった18歳、19歳の有権者、1775人(1月27日までの選挙時登録)の投票動向が今回は決定的だったことだ。

 沖縄タイムス、琉球新報、共同通信が実施した出口調査では、10代の9割が、20代の8割が稲嶺候補「ではない」側に投票していた。10代の名護市の若者たちにとっては、基地反対運動なんかよりも「名護市にスターバックスが来る」という選択や、「ごみ分別が16種から5種に減る」方が、もっと重要だと判断したんだろうか。たとえば、小泉進次郎議員が遊説スタート地点に選んだ県立名護高校前に集まった君たちも、そのように投票したんだろうか。それはそれでいいや。僕は何にも言いたくない。「国策」である辺野古新基地建設の是非を、若いというか、まだ幼い君らに背負わせている本土の人間である僕らの方に途轍(とてつ)もない責任があるのだから。

 君らは小泉進次郎や三原じゅん子の顔をみられてよかったね。それは羽生結弦選手をみるために成田空港に出迎えに行った若者たちとそんなに変わるものじゃない。けれど、それで名護市のどこがどう変わるんだい? 彼や彼女はもうしばらく名護には来ないぜ。彼ら彼女らは、お呼びがかかればどこにでも行く国会議員の人気者だ。名護だけにいつまでも関わってはいられない。次は石垣市かもしれないし、その次は沖縄市かもしれない。呼ばれればどこにでも行って、耳触りのいいことを言って帰る人たちだ。何てかっこいい人たちなんだろう。君らはそう思ったかもしれない。

 君たちは普段どんな歌を聴いているんだい? 君らがおそらく票を投じたであろう候補者(現市長)の選挙キャンペーンで、多額のお金をかけて作曲された歌を聴いたかい? 〈勝つぞ 渡具知 勝利の男 勝つぞ 渡具知〉何だか軍艦マーチみたいな曲だったよね。君らはでもそうは思わなかったのかもしれない。だって稲嶺進さんの陣営には歌なんかなかった。選挙戦というものは一種の祭りだ。そこに音楽や歌がないなんて君らの感覚では、信じられるかい?

 敬愛する古謝美佐子さんがネーネーズ時代に謳(うた)った名曲に『黄金の花』がある。僕はこの曲が大好きだ。

 素朴で純情な人たちよ 本当の花を咲かせてね
 黄金でこころを捨てないで
 黄金の花は いつか散る  (ネーネーズ『黄金の花』より)

 辺野古の護岸工事の行われていた大浦湾の美しい対岸で、古謝さんにこの歌を歌っていただいたことがある。いつのまにか、僕らは歌を忘れていないだろうか? でね、どうせ歌うならかっこいい魅力的な歌を歌おう。あなたの歌っているその歌は、名護の若者のこころには全くもって響いていなかった。僕はそう思う。(テレビ報道記者・キャスター)