今年の春に北陸新幹線が開通し、東北北陸への旅もますます便利になってきました。今から300年前に東北北陸を旅し「奥の細道」を書いた松尾芭蕉ですが、現在のように快適ではなく長旅で、その間、痔(じ)に悩まされていたようです。「奥の細道」の旅を終えた芭蕉は弟子の牧童へ「去年遠路ニつかれ候間、下血など度々はしり迷惑致候」と痔の出血が止まらなかったことを書簡に書いています。このために四国以西への旅を断念したそうです。

 松尾芭蕉に限らず痔はよくある病気です。しかし痔で病院へ行くのは勇気がいることかもしれません。最近のインターネット調査では痔で悩んだことがある人は75%にも及んでいますが、実際に病院を受診した人は男性で32%、女性は24%だけでした。受診しなかったのは「恥ずかしいから」が大きな理由ですが、「診察や治療が痛そう」というのも理由の一つです。

 痔には、いぼ痔(痔核)、切れ痔(裂肛)、あな痔(痔瘻(ろう))がありますが、中でも多いのは痔核です。肛門付近はもともと血管が豊富にあるところで、クッションとよばれる構造があり、肛門をぴったり閉鎖するのに役立っています。

 痔核の原因は不明な点が多いのですが、加齢とともにこのクッションが緩み、とくに排便習慣が悪い方は痔静脈が膨大し、肛門が腫れ、脱出したものが痔核であると考えられています。さらに痔核は腫れる部分によって内側にできる「内痔核」と外側にできる「外痔核」に分類されます。

 治療法には軟こうを使った保存療法と、痔核を切り取ったり結んだりする手術療法、注射薬を使った硬化療法があります。

 病院を受診した患者さんで手術が必要となる方は3割以下で、多くの方は排便習慣の改善と保存療法で軽快されています。手術療法にも改善が加えられていますが、やはり手術後は痛みます。

 これに対して2005年から新しい注射治療薬(硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸注射液)が登場し、従来手術を行っていた痔核も注射で治すことができるようになっています。

 注射薬を痔核の適切な部位に注射することで痔核を固めて出血を止めるとともに脱出しないようにします。治療後の痛みはほとんどなく、日帰りもしくは短期入院での治療が可能です。ただし硬化療法は「内痔核」以外には適応がありませんので注意が必要です。

 お尻の問題でお困りの方は、ぜひ、気軽に専門医に相談してみてはいかがでしょうか。(野里栄治 沖縄赤十字病院)