沖縄県内では今年、計6個(12月10日現在)の台風が接近し、各地で爪痕を残した。離島県の沖縄では、台風のたびに航空機や船の欠航が相次ぎ、食料品の不足など離島の住民生活に影響が出るほか、停電や電話がつながらないなど孤立を招くことも。各離島の災害時の対応や課題について取材した。

全壊した空き屋を視察する国や町の関係者=10月1日、与那国町祖納地区

暴風でぐらついた雨戸を取り壊す男性=9月30日、与那国町・祖納地区

電柱が各地で倒壊・損壊し、電気や電話が島内全域で使えなくなった=9月30日、与那国町比川地区

真新しい避難施設を紹介する伊良部仲地地区の山里英也自治会長=12月7日、宮古島市伊良部伊良部

地震・津波の避難訓練で、歩いて高台に移動する北大東小中学校の児童・生徒と幼稚園児ら=11月5日、北大東村中野(同校提供)

医療機器や人員の限られる離島の診療所では、災害で負傷者が多数出た場合の対応が課題だ=12月7日、県の南大東診療所(東和明通信員撮影)

南・北大東島では、食料品や生活物資の輸送の大半を船便に頼る。パンや牛乳、生鮮野菜が2週間ぶりに届き客が殺到した=2014年10月、同村在所のAコープ南大東店(東和明通信員撮影)

今年の台風災害について説明する沖縄気象台防災調査課の當眞辰彦課長

竹富町が配信した防災メール

全壊した空き屋を視察する国や町の関係者=10月1日、与那国町祖納地区 暴風でぐらついた雨戸を取り壊す男性=9月30日、与那国町・祖納地区 電柱が各地で倒壊・損壊し、電気や電話が島内全域で使えなくなった=9月30日、与那国町比川地区 真新しい避難施設を紹介する伊良部仲地地区の山里英也自治会長=12月7日、宮古島市伊良部伊良部 地震・津波の避難訓練で、歩いて高台に移動する北大東小中学校の児童・生徒と幼稚園児ら=11月5日、北大東村中野(同校提供) 医療機器や人員の限られる離島の診療所では、災害で負傷者が多数出た場合の対応が課題だ=12月7日、県の南大東診療所(東和明通信員撮影) 南・北大東島では、食料品や生活物資の輸送の大半を船便に頼る。パンや牛乳、生鮮野菜が2週間ぶりに届き客が殺到した=2014年10月、同村在所のAコープ南大東店(東和明通信員撮影) 今年の台風災害について説明する沖縄気象台防災調査課の當眞辰彦課長 竹富町が配信した防災メール

■21号が通信網破壊 与那国

 国内歴代5位の暴風-。9月28日、台風21号が接近した与那国島は最大瞬間風速81・1メートルの猛烈な風に襲われた。携帯や固定電話、インターネットなど多くの通信インフラが破壊され、町役場は被害の把握や、住民への注意喚起ができない状態に陥った。

 台風21号の急接近で、28日午後から与那国では停電が始まった。

 町役場には二つの防災行政無線があった。一つは県防災危機管理課と独自の回線でつなぎ、被害状況や対応などをやりとりする「ホットライン」。

 町役場では通常、停電と同時に非常用発電機が稼働するが、当時、設定が「手動」となっており、電気が通じず、ホットラインが切断。

 もう一つは町役場と各世帯をつなぐ防災無線だが、中継局の停電により、各家庭に災害状況を伝えることもできなくなった。

 家屋の屋根が飛び、ガラスが次々に割れる未曽有の災害のさなか、町役場は県と住民をつなぐ手段を失った。

 町関係者は「大きなけが人が出なかったのが不幸中の幸い。重傷者が出ていても、だれにも連絡できない。十分な対応ができていたか」と振り返る。

 町総務財政課は「電源の確保が重要」とし、町役場や中継局、医療機関など防災重要拠点への非常用発電機の整備を進める方針。また、災害時に発電機が稼働するよう、日常的なチェック体制の構築にも取り組む。(新崎哲史)

■津波に備え避難所 伊良部

 宮古島の北西にある伊良部島は人口約5400人。海抜が低い地域に8月、「伊良部地区津波避難施設」が完成した。東日本大震災以降、津波や地震に対する住民の防災意識は高まっており、地元自治会は避難施設の認知度を上げ日ごろの訓練にも活用したい考えだ。

 施設は鉄筋コンクリート造り3階建て。総事業費は約8600万円で、一括交付金などを活用した。1階は倉庫や駐車場で、3階部分と屋上が避難ステージ(8メートル以上)となる。収容人数は約280人で想定する浸水の深さは5メートル。上部の倉庫には非常食や飲料水、カセットコンロや簡易電話などを備えた。

 「台風対策は万全だけど、地震や津波はいつくるか分からない」と話すのは、伊良部仲地地区の山里英也自治会長。建設場所については一人暮らしのお年寄りが多い地域で、近くに入り江があり被害の深刻化が予想されることなどを考慮したという。隣の下地島地域からの避難も念頭にあった。

 施設完成を受けて、自治会などは宮古島地方気象台や市職員などを招いた講演会を10月24日に開いた。地域住民70人が参加し関心の高さがうかがえた。

 山里自治会長は「明和の大津波の経験もある。施設を利用して住民意識の喚起や訓練などもしていきたい」と語る。今年1月の伊良部大橋の開通で、島には海岸線を訪れる観光客も爆発的に増えた。山里自治会長は防災に関する観光客向けの周知も課題の一つとして挙げた。(新垣亮)

■けが人対応に課題 南・北大東

 沖縄本島から東方約360キロの南・北大東島は、台風の通り道にある。古い木造住宅に住む住民もおり、与那国島を襲った最大瞬間風速81・1メートルといった猛烈な暴風で、けが人が多数発生した際の対応が課題だ。

 両島には県立の診療所があり、それぞれ医師と看護師の計2人が勤務する。

 医療器具の限られている施設では、頭や胸、腹部などを強打し、脳内出血や内臓などをけがした場合、治療に限界がある。重傷者は本島へ搬送するが、台風が大東から本島へ向かった場合、すぐさま移動できないことも考えられる。

 また、負傷者が多数出た場合は、人手が足りなくなる可能性も考えられる。この場合、「医師や看護師の指示を仰ぎながら、消防団員が手助けすることになるだろう」と南大東村の防災担当職員は話す。

 一方、本島で大規模災害が発生した場合、港湾と空港が被災して物資輸送が滞り、本島に物資が集中することも懸念される。

 東日本大震災では、電池や紙おむつの入手が一時的に難しくなった。万一に備え、南大東村はコメ4トンや飲料水1600本など、北大東村はコメ5トンを備蓄している。(又吉健次)

■経験と最新情報の活用を 沖縄気象台・當眞防災調査課長に聞く

 2015年の沖縄地方の気象災害の特徴や離島における防災について、沖縄気象台防災調査課の當眞辰彦課長に聞いた。(聞き手=吉川毅)

 ―台風の発生状況について。

 「今年は台風が26個発生(12月10日現在)し、そのうち沖縄地方に接近したのは6個(平年7・4個)だった。5月に台風6号、8月に13、15号、9月に21号が通過した八重山地方では記録的な暴風が吹いた。特に、与那国町では、猛烈な風でライフラインの途絶、多くの家屋損壊など建造物に甚大な被害があった」

 ―八重山地方など離島で被害が大きかった背景は。

 「15号と21号の猛烈な風とそれによる災害が顕著だったことが特筆される。琉球大学と気象庁気象研究所が共同で調査した台風15号については、周辺の海水温が高かったことなど、八重山地方に接近・通過する際に台風の発達や勢力の維持に好都合な条件がそろっていたなどが挙げられる」

 ―台風21号で、与那国島は災害救助法が適用された。電気や電話などの復旧に時間がかかり、孤立した状態になった。課題や必要な備えについて。

 「台風後に島を調査したが、記録的暴風の中で、人的被害はゼロだった。その背景には関係機関や住民の事前の対策がある。台風接近の2、3日前から防災行政無線で厳重な対策を繰り返し呼び掛けた。地域の消防団とも連携し、暴風被害が危惧される家屋の住民を把握し、戸別訪問で避難を呼び掛けていた」

 「大きな自治体では難しいきめ細かな対応は可能であり、住民も台風常襲地帯での生活で培われた防災知識や知恵を備えている。これが被害を最小限にとどめた背景にあると思われる」

 ―住民それぞれができる対策について。

 「島の通信施設が被害を受けると情報入手が困難になる。刻々と変わる気象状況を把握するために携帯ラジオが欠かせない」

 「台風に伴う高潮・高波災害もある。過去にあった高潮災害の場所を把握し、最新の情報を活用した防災対策も必要だ。気象台のホームページや自治体から送られるエリアメールなどの情報も活用してほしい」

■携帯メールに防災情報 県内15離島

 県内離島6町村15島では、携帯電話のメールを活用し、防災を含むそれぞれの地域に密着した生活情報を住民に提供している。ホームページ制作などを手掛けるジュンク(浦添市、平良健二代表)が国の補助事業などを利用して開発したシステムは、2009年から北大東村をモデル地域としてスタート。東日本大震災後からは、多良間村、南大東村、竹富町、渡嘉敷村、粟国村も運用している。

 北大東村では、漁船が遭難した際に衛星利用測位システム(GPS)で位置情報が発信できる「海域型防災情報」、台風や津波などの情報を伝える「緊急防災情報」、「行政サービス情報」「農作業受委託・農機具貸し出し予約」などを提供。その他の町村でも地域の実情に合わせた医療や介護、イベント情報のほか、高校入試の合格者情報、魚の水揚げ情報などを提供しているところもある。

 平良代表は「北大東では住民の8割が登録している。島の人たちが普段から活用していることで、災害が起きた場合でも慌てずに情報収集できる」と説明。

 システムの運用前は、台風で船舶や航空便の運航が当日にならないと分からない地域では、住民が当日の運航状況を役場に問い合わせたり、地震や津波情報を防災無線で放送しても住民が畑に出ていて、伝わらないことも多かったなどの事例を挙げた上で「住民の生活向上にもつながるサービス。観光客も含め多くの人に利用してほしい」と呼び掛けた。

 同サービスの利用は、役場などで配布するチラシに記載されたQRコードを読み取ることで、専用のサイトにアクセス。空メールを送信して返信メールを受け取り登録する。

 同社システム開発部の平良彰男チーフプロデューサーは「渡嘉敷村では、観光客の荷物がカラスに盗まれたということで、荷物の捜索情報を流していた」と紹介。「防災だけに特化するのではなく、地域密着の情報も配信することで利用者も増えている。島のコミュニティーの一つとして定着している」と話した。(吉川毅)

■最悪の状況に備え 本紙記者が体験した台風15号

 「死ぬかと思った」。石垣島で最大瞬間風速71メートルを観測した8月の台風15号。避難所で手を震わせながら話した男性の言葉が恐怖を物語っていた。割れたガラスが凶器となり、車が木の葉のように横転する。台風取材に送り込まれ、そんな光景を現場で目撃した。

 15号は当初は960ヘクトパスカルで弱い勢力とみられていた。しかし、時間とともに、想像を超える「爆風」になった。中学卒業まで名護市に住んでいた私は防風林となるフクギ並木に囲まれ育った。「防風林」のおかげもあるが、身の危険を感じるほどの恐怖を味わったことはなかった。

 台風は予測が難しいからこそ、最大限の警戒が必要だ。石垣島のような離島は台風によってライフラインが遮断される可能性も高く、飛行機、船の欠航が相次ぐと、島の人たちの足が奪われる。万全を期しても被害が想定できない災害だからこそ、最悪の状況を想定した備えが必要なのではないか。(比嘉太一)

■食糧・空間 3日の備えを 稲垣暁さん(沖国大特別研究員)

 県内有人離島の中には、高齢者や要援護者といった社会的弱者が占める割合が高いにもかかわらず、マンパワーや備蓄に限界があり、支援の手も少ないという厳しい現状がある。

 地形や人口構成など島の事情にもよるが、大災害が発生した際、まずは3日間生き延びられる食糧や空間(自家発電を備えた避難場所)の確保を念頭に置いてほしい。3日間をしのげば、外部からの支援が受けられる。

 沖縄は台風をはじめ風水害が多い。ことし9月に茨城県で発生した鬼怒川の堤防決壊や、昨年8月に広島市を襲った豪雨による土砂災害など、従来のように予測できない気象現象が相次いでいる。警報が出てから避難するのでは間に合わないケースもある。

 今、防災関係者の最大のテーマは、いかに避難のロスタイムを減らすかということ。地域での避難訓練に参加することが大事だが、できないのであれば、家屋が倒壊したときの通路の確認など、日ごろから「気付き」を意識してほしい。沖縄県民は台風対策には慣れていると言われるが、2013年11月にフィリピンに甚大な被害をもたらした台風など、地球環境の変化で、今後は同程度の台風が襲来する可能性は高い。「過去の経験則は当てはまらない」という意識を持ち、1分でも1秒でも早く避難する態勢づくりを心掛けてほしい。(渡慶次佐和)