政府の政策に待ったをかけ、反対意見の受け皿となる「対抗勢力」が存在しなければ、民主政治は健全さを維持することができない。

 政府の権力行使をチェックする役割は野党だけに与えられているのではない。与党は政府の仕事を点検し注文をつけ、多様な民意を政治に反映させる機能を担っているし、メディアには政府を監視する役割がある。

 憲法も「法の支配」という考え方も三権分立という制度も、権力を縛り少数者の権利を守るという意味では、行政に対するとても大切な「けん制力」だ。

 ところが、安倍晋三首相の政治手法や小選挙区制導入の影響もあって、これらの「対抗勢力」や「けん制力」のことごとくが弱体化し、行政権力が肥大化してしまった。

 民主政治の土台が根底から堀り崩されているのである。

 第1次安倍政権の生みの親ともいえる小泉純一郎元首相は、10日発売の月刊誌「文芸春秋」のインタビューで、安倍晋三首相の政権運営について「全部強引に押し切ってしまう」と疑問を呈した。

 「今は(党としての結論が)決まる前から首相のご意向に黙っちゃうからおかしい」とも指摘する。

 安倍首相が「右向け右」と言えば、十分な議論もないまま全員がそれに従うという構図を批判しているのである。 総裁選の無投票当選や、消費税の軽減税率をめぐる自民党税制調査会の議論は、活発な党内論議を避け硬直化してきた自民党の現状を象徴している。危うい傾向だ。

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 自民党税調はかつて、税制に関しては圧倒的な影響力と自律性をもっていた。財務省に近く軽減税率導入にも慎重だった野田毅会長が更迭されたことは、党税調の影響力低下と「官高党低」の現実を浮き彫りにした。

 自民党の谷垣禎一幹事長も当初は軽減税率の適用範囲を拡大し、食品全般を対象にすることに慎重だった。財源確保のめどが立たないからだ。

 だが、谷垣幹事長や党税調は「公明党との選挙協力を大事にせよ」という官邸の主張に押し切られ、財源確保策をあいまいにしたまま、白旗を上げた。安倍首相や菅義偉官房長官が選挙への影響を重視したことはあきらかである。

 異論を掲げて総裁選に挑んだ野田聖子氏は、推薦人を集めきれず出馬断念に追い込まれた。推薦人に名前を連ねた場合の「御難」を恐れた議員もいたという。自民党から多様性が失われつつある。

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 野党各党が憲法53条に基づいて臨時国会の召集を要請したにもかかわらず、政府・自民党は「首相の外交日程が窮屈」だという理由で召集を見送った。これも過去になかったことだ。強引な政権運営は各面で際立っている。

 野党が対抗勢力としての役割を果たすことができず、国民の対抗意見が政治の場で生かされない。国会の中にも自民党の中にも有力な「対抗勢力」がなく、政府への「けん制力」が働かない-この状況は政党政治にとっても民主政治にとっても危機的だ。