「自分らしく生きる」と、もっともらしいことを言い放ち、簡単に会社を辞めていく人間を何人も見てきた。自分らしさ、という言葉の安っぽさにへきえきしていたが、本作の主人公マリーナの生き方を、「自分らしい」と表現するのであれば、話は別だ。

「ナチュラルウーマン」の一場面

 トランスジェンダーのマリーナは誕生日の夜、最愛の恋人を失う。悲しみのさなかにもかかわらず、マリーナはトランスジェンダーであるが故、容赦のない差別や偏見を浴びせられる。2人で暮らしていた部屋から追い出され、葬儀にも参列させてもらえない。それでもマリーナは愛する人に最後のお別れを告げるため、前を向いて歩き続ける。

 泣きわめくこともせず、世間の悪意にさらされても信念を曲げない。強さと優しさをまとったその姿こそ「自分らしく生きる」人間の美しい姿だと感じた。(桜坂劇場・下地久美子)

 ◇桜坂劇場で10日から上映予定