「安」の字は、屋根の下で神にひざまずく女性の姿を表す。女性が嫁ぎ先の先祖をまつる廟(びょう)に参って、安泰を求める儀式をしているという

▼女性が祖先から家族と認められ、安らかな気持ちになることから「やすらか」の意味となった。全国地方紙のニュースサイトにある「漢字物語」に習った

▼今年の世相を表す漢字に「安」が選ばれた。京都・清水寺の森清範貫主が墨書する師走恒例のニュースが16日に載っていた。森貫主は「来年は安全な社会を作っていこう」との心を込めたという

▼確かに「やすらか」とはほど遠い1年だった。安全保障関連法をめぐって世論は裂かれたままで、世界に恐怖を広げたテロ事件も頻発した。河川氾濫、火山の活発化で自然の猛威を見せつけられ、マンションのくい工事偽装問題でも暮らしの安全が脅かされた

▼上位に選ばれた中には「戦」「偽」「争」「変」と一見、穏やかでないイメージが浮かぶ字も並ぶ。やはりトップの「安」には、国民の「不安」が先にあり、安心、安全への願いが込められているのだろう

▼安保法では乱暴な質疑や強引な採決があり、デフレ脱却とはならない経済の不透明さは続く。安倍政権自体が国民の願望を引き起こす一因にもなった。「安を倍増すると安倍になる」。首相のおどけに、心安らげない人も多かったであろう。(宮城栄作)