演劇作品「死角の箱」(新城啓脚本、安泉清貴演出、普天間伊織制作)が2月27日から3月4日までの6日間、9公演というロングランの形で、那覇市松尾のわが街の小劇場で上演された。2015年の初演から3年ぶりの再演となった。

認知症の介護をめぐる様々な葛藤を浮き彫りにした劇「死角の箱」=那覇市・わが街の小劇場

 物語は「認知症と介護」をテーマに一つの家族が徐々に壊れゆく過程を克明に描いていく。主人公の男は、記憶を失くしコミュニケーションをとることもままならなくなっていく母親をそれでも愛そうともがき、社会の無慈悲に打ちのめされ、差し伸べられた唯一の救いの手さえも一抹のプライドによって自ら振り払いながら、じりじりと孤独と貧困の箱に閉じ込められていってしまう。

 この舞台にエンターテイメントの要素はほとんど無い。ほぼ全編にわたって、まるで観客の耐性を試すかのように目を背け、耳をふさぎたくなるような場面と言葉が続き、最後まで気休めのような安易なカタルシスは一切無い。しかし、そうやって徹底的に人生の暗部を描き切ることによって、その先にあるであろう微かな光(希望)を予感させることに成功している。

 物語の後半、ある人物が口にする「生きろ」という言葉の力強さ、そのとき母親が見せる表情の美しさには人生への肯定感があふれていた。

 芝居は、観客に拍手を求めない形で終わる。そう、最後に主人公が選んだ(または与えられた)未来は拍手で送り出すにはあまりにも荒涼としている。しかし、観客はそれでも彼が歩き出すであろうことを知っている。彼とともに確かに光の存在を感じたからだ。素晴らしい舞台だった。(舞踊家/振付家)