ふさふさの黒毛に、丸々と太った犬。小熊と見まがう2頭は、かつて無人の南極に置き去りにされ、1年間生き延びたタロとジロだった。食料のない極寒の地で、やせ細っていたとばかり思っていたので、ふくよかな姿に驚かされる

▼日本が南極観測に乗り出したのは、経済白書の「もはや戦後ではない」が流行語になった1956年。東京・丸の内で開催中の写真展は62年間の軌跡が臨場感を持って伝わってくる

▼隊員53人を乗せた最初の観測船「宗谷」は、昭和基地に越冬隊を残して帰途に就く道中、氷海に行く手を阻まれる。SOSで駆け付けたのは旧ソ連の砕氷艦。未開の大地の探求に冷戦は無縁だったようだ

▼地球上の淡水の9割を占める南極の氷床。その消長のメカニズムはまだ解明されていない。でも、蓄積された氷を分析すれば、地球がたどった気候変動の痕跡を読み取れる

▼地球温暖化はますます進むのか。約2万年の間氷期が終わり、寒冷化するとの見方もあるらしい。この星はどこへ向かうのか。それを探る試みを観測隊が支える

▼宇宙の片隅で46億年前に生まれた地球。1年に例えると、人類の誕生は3時間前、人の一生はわずか0・5秒だ。今を生きる私たちも果てしない時の流れのほんの一部。南極の分厚い氷を眺めていると、おのずと歴史に謙虚になれる。(西江昭吾)