沖縄県は25日、翁長雄志知事の埋め立て承認取り消しを行政不服審査法に基づき執行停止した石井啓一国土交通相の決定を違法として、決定の取り消しと判決が出るまでの執行停止を求める抗告訴訟を起こした。那覇地裁に提出した訴状は159ページ、執行停止申立書は167ページに上る。弁護団が「最大の争点」というように今回のケースで県が国を訴える資格があることや、国交相決定で県の利益が侵害されていることなどを強調。決定の違法性を指摘している。訴状と申立書のポイントをまとめた。

沖縄県の抗告訴訟 訴えの骨子

<国交相 執行停止の違法性>

 県の埋め立て承認取り消しに対する石井国交相の執行停止について、県は私人の権利救済を目的とする行政不服審査制度は国(沖縄防衛局)に請求資格がなく、「不適法で却下されるべきもの」でありながら、「辺野古移設という内閣の一致した方針」に従い違法に執行停止を決定したと指摘する。

 地方自治の保障の観点からも国が不服を申し立てる問題点を指摘する。地方自治法改正で国と地方自治体の関係は「対等・協力」であり、両者の調整は司法の判断に委ねるとされた理念に適合しないと主張する。

 沖縄防衛局が私人と同様に位置付けられるかどうか「固有の資格」の有無の判断では、埋め立ての「承認」は国が対象で、「免許」を得る私人とは区別されると説明。外交・防衛上の条約に基づく基地の提供を目的とした基地建設は国家としての「固有の資格」の立場であり、防衛局は「私人」ではなく執行停止を申し立てる資格がないと強調する。

 沖縄防衛局の執行停止申し立てを国交相が判断するという国同士となる構図に「同一の行政主体が行政目的実現のために結論ありきの偏った判断がなされる恐れがある」と、客観性・公平性の問題も挙げた。代執行手続きの閣議決定と同日の国交相の執行停止決定は、裁決を避けて代執行を優先させる目的であるとし、「行政不服審査手続きを棚上げ・塩漬けするもの」で「執行停止決定権限の悪用」とも批判した。

<新基地建設 中止の緊急性>

 執行停止の申立書で、県は石井国交相の執行停止を止めるべき緊急性について、環境面を中心に「工事が進行してから工事を違法とする判決が下されたとしても、沖縄県が被る損害の回復は不可能」として、作業の進行が既成事実化につながることを防ぐ点からも急ぐ必要性があると主張する。

 県は「事業対象区域周辺の生物環境は広範囲に破壊され、どれほどの資金を投入しようとも、どれだけの努力を行おうとも絶対に元に戻すことは出来ない『重大』な損害が生ずることは余りにも当然」と環境の不可逆性を強調している。

 新基地建設は「危険の除去」ではなく「危険の移転」であるとして「部分的にでも供用が開始すれば回復できない以上、速やかに食い止めるべき緊急の必要性がある」と主張する。

 裁判の判決が出るまでの間に工事が進むことで「沖縄県民の意思に反して、自らの管理の及ばない広大な土地が生ぜしめる既成事実が刻一刻と積み重ねられていく」と懸念を示した。

 国交相の執行停止によって作業が可能な状態となった沖縄防衛局の立場は「工事着工の遅れで生じる可能性がある違約金等を免れる利益くらい」であり、工事の着工にも至っていない現段階では「考慮に値すべき利益とは到底言い難い」として、「埋め立て承認取り消し処分の執行停止」の必要性はないとする指摘も盛り込んだ。

<侵害される利益>

 公有水面を埋め立てる場合、公有水面埋立法に基づき、都道府県知事の免許(国の場合は承認)を受けなければならない。知事に権限を与えることで、地方自治体の利益を保護する仕組みを採用し、その個別的利益を保護している。

 埋め立て地域とされる辺野古崎や大浦湾は極めてまれな地理的特徴を持ち、藻場が安定的に広がり、サンゴの大群集が分布するなどの環境的価値を有する。ジュゴンの生息域のほぼ中心に位置し、欠かせない餌場となっている。ラムサール条約登録湿地の要件を満たしている。

 環境の保全や利用に関する計画も多数あり、生物多様性おきなわ戦略、琉球諸島沿岸海岸保全基本計画、名護市景観計画などの対象になっている。

 埋め立てで、海草藻場、ジュゴン、ウミガメ、サンゴ類など自然環境への影響のほか、航空機騒音などによる生活環境への影響も避けられない。

 自然環境は一度消失すると再生不可能。恒久的な米軍基地の建設は恒久的な航空機騒音などの被害を周辺に与える。その結果、県の環境保全や利用にかかる計画の立案や実行も不可能になる。

 また、米軍基地の建設は自治権を直接的に制約し、自治権の空白地帯を設定するものにほかならない。

 米軍基地の存在は県の地域振興開発の重大な阻害要因で、環境被害や犯罪など被害は甚大。行政権の行使は著しく制限される。

 沖縄県の自己決定によらずに新基地を建設して、基地負担を固定化することは憲法92条が保障する自治権を侵害するものにほかならない。

 本件執行停止決定は、公有水面埋立法4条1項1号、同2号により保護された沖縄県の固有の利益を侵害するものであり、本件執行停止決定を取り消すことについて、沖縄県には法律上の利益が認められるから、抗告訴訟の出訴資格が認められる。

<抗告訴訟の適格性>

 県に抗告訴訟の資格があるかどうかをめぐり、訴状は、知事の埋め立て承認取り消しの効力が国に停止されたことで「新基地建設工事が始まってしまっているという不利益」が生じていると指摘している。加えて、県が被る不利益は抗告訴訟の提起以外に司法的救済方法がないと主張し、県に提起の適格性があると主張している。

 地方自治体が抗告訴訟を起こす行為に否定的な見解があるが、独、仏、英米諸国のほか、日本国内の学説でも、地方自治体が国家の行為を訴える資格があるとする論考が多数あることを挙げ、反論している。

 例として塩野宏東大名誉教授や人見剛早稲田大法学学術院教授ら複数の法学者による論文を引用。

 「制定法上、地方公共団体の(利益の)侵害を、訴訟をもって(自治体が)攻撃し得ることは認められるであろう」(塩野氏)、「公益を理由に原告の適格が否定されるのは、原告が一般私人であるからである。地方自治体の原告適格を否定する理由にはならず、むしろ自治体のみが原告適格を有しうる」(人見氏)などの主張を列挙した。

 その上で、国交相による執行停止決定で「県の利益が侵害されている」とし、国と県が上命下服の関係にあるわけではなく、意思形成の独立性があると訴えている。