歴史的な合意ではあるが、現時点では政府レベルの交渉妥結にとどまる。元慰安婦の女性たちはこの決着をどう受け止めるか、韓国の世論はどう評価するのか。

 両国関係に突き刺さったトゲを抜き取り、相互理解を深め、和解を実現するためには、何は差し置いても日本における官民の真摯(しんし)な取り組みが欠かせない。

 日韓両外相は28日、ソウルで共同記者会見し、「従軍慰安婦」問題について「最終的」な合意に達したことを明らかにした。

 「不可逆的な」という言葉をあえて加えたのは、両政府の間では今後、この問題を蒸し返さない、という意味である。

 会見で岸田文雄外相が明らかにした日本政府の見解は、この問題を考える際の新たな出発点になるものである。

 岸田外相は慰安婦問題について「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」だと指摘し、「日本政府は責任を痛感している」と述べた。

 さらに岸田外相は、「心からおわびと反省の気持ちを表明する」との安倍晋三首相の気持ちを伝え、元慰安婦の方たちの心の傷を癒やすため日本政府の予算から10億円規模の資金を拠出することを明らかにした。

 元慰安婦への賠償について、1965年の日韓請求権協定で「解決済み」と主張してきた政府が、国の責任を認め、政府予算を使って支援事業を実施することを明らかにしたのである。一歩前進したのは間違いない。

    ■    ■

 だが、政府間交渉の結果が国民に受け入れられるとは限らない。例えば、安倍政権の閣僚が合意内容に反するような暴言を吐いたり、謝罪や反省や責任を否定し元慰安婦の尊厳や名誉を傷つけるような草の根の運動が表面化すれば、政府間合意が崩壊する可能性もある。

 ソウルの日本大使館前に設置された少女像の取り扱いについて尹炳世(ユンビョンセ)外相は「関連団体との協議を通じ適切な解決に努力する」ことを明らかにしたが、簡単にはいきそうもない。

 外交と内政は密接につながっている。韓国の人たちが「変わらない日本」を実感し、逆に日本の人たちが嫌韓感情を抱えたままだと、両国の和解は遠のく。政府間合意によって新たな革袋ができたのは確かだが、これにどのような中身を盛り込んでいくか。課題は多い。

    ■    ■

 日韓両外相の記者会見をテレビで見ていてふと頭に浮かんだのは、ペ・ポンギさんの姿である。ペさんは44年、旧日本軍の慰安婦として沖縄に連れてこられ、渡嘉敷島に配置された。

 逃げ場のない離島で日によっては何十人もの兵隊の相手をさせられ、戦後は帰るのをいやがって米軍統治下の沖縄にとどまった。身寄りもなく、方々を転々とする不安定な生活。頭痛、神経痛の持病…。ポンギさんが異郷の地でひっそり生涯を閉じたのは91年10月のことである。

 国の責任の重さをあらためて思う。