異様なメールである。

 からみつくような、ねちっこい文体。「ご教示ください」などと言葉遣いは丁寧だが、中身は詰問調。学校の個別の授業内容について、事細かに執ように、問いただしている。

 一読して、その異様さに驚かされる。

 文部科学省の前川喜平前事務次官が2月16日、総合学習の時間の講師として名古屋市立中学校に招かれ、生徒や保護者ら約500人を前に講演した。

 メールとは文科省が名古屋市教育委員会にあてた問い合わせメールのことである。

 組織的天下り問題で引責辞任した前川氏に講演を依頼した経緯や狙い、謝礼金の有無、講演内容などを微に入り細にわたって問いただし、録音データを提供するよう求めている。

 5日の市教委からの回答を受け、文科省は翌6日、あらためて追加質問のメールを送った。尋常な対応ではない。

 参加者によると、前川氏は加計学園問題や政治的な話題には一切触れず、自身の不登校体験や夜間中学のボランティア経験を語り、「学ぶ力や考える力を中学生や高校生の間に身につけてほしい」と呼びかけた。

 文科省は「初等中等教育局長の判断で、法令に基づき調査した」と説明する。

 問い合わせ自体に問題はないとの見解だが、林芳正文科相は「誤解を招きかねない面があった」ことを認め、担当局長を注意したという。

 問題は、国が個別の授業内容に介入したことだ。

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 地方教育行政法第48条は、学校運営などについて、文科相が都道府県や市町村に対し指導、助言、援助を行うことができると定め、53条で、そのために必要な調査を認めている。

 ただし、同法に基づく授業調査は、いじめ問題が発生したときや、あきらかな法令違反があった場合などに実施されるのが普通である。

 授業内容は、それぞれの学校の自主的な判断にまかされている。国が直接、授業内容に口を挟み、圧力と受け取られかねないような聞き方をするのは極めて異例だ。

 教育基本法は「教育は不当な支配に服することなく」行われるべきものだと規定している。

 文科省が録音データの提出まで求めたことは、現場にプレッシャーをかけるようなもの。省内からも「そこまで要求するのはやりすぎ」との声が上がっているという。

 国家権力による学校への介入を安易に許すことになれば、教育現場は萎縮し自由で伸び伸びした気風は失われる。

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 前川氏は、加計学園の獣医学部新設計画を巡る安倍政権の対応を厳しく批判し、「行政がゆがめられた」と発言していた。

 文科省は、前川氏の今回の授業について、外部から照会があったことを認めている。 前川氏の講演だったからこそ、執ような授業調査が行われたのであり、調査を促すような政治家の圧力や関与がなかったかどうかも気になるところだ。