社説

社説[第70回沖展]歴史の重みかみしめて

2018年3月21日 09:09

 今では考えられないような沖展にまつわる興味深い話が、本紙の戦後50年企画「読者がつづる半世紀」に寄せられている。

 投稿したのは宮古島に住む沖展会員で、当時76歳の下地明増さん。

 宮古島で活動する絵画グループ「二季会」の中心メンバーだった下地さんは、1957年の9回展に初出品して以降、入賞・入選を重ねていた。一晩船に揺られて会場に駆け付けたこともあったが、毎年、行くことはかなわず、本島に住む弟に「代わりに」見に行ってもらったという。

 「弟は絵の趣味があり、彼に頼んで、好きな絵をスケッチしてもらった。名刺版ほどのスケッチで5、6点、鉛筆書き。それを通して沖展を『鑑賞』していた」

 スケッチから想像を膨らませていたのだろうか。中央の傾向を知りたいという情熱がほとばしるエピソードだ。

 12回展で会員全員が入選を果たした二季会は、主催者宛てに手紙を送っている。 

 「刺激の多い本島に比べて傷あとを大きく残す台風以外に私たちの心にふれるもののない当地は芸術文化がおくれがちです」「孤島宮古を文化の都におきかえるよう考えております」

 沖縄戦で焦土と化した郷土の人々の心を芸術で癒やし、復興を図ろうと始まった沖展同様、二季会メンバーも中央から遠く離れた島で文化復興の熱意に燃えていたのだ。

 宮古島の風土を感じさせるサトウキビを好んで描いた下地さんは、91歳で亡くなるまでほぼ毎年、沖展への出品を続けた。

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 春を彩る美の祭典「第70回沖展」がきょう、浦添市民体育館で開幕する。人間でいえば70歳の「古希」にあたる記念展だ。

 沖展は49年、沖縄タイムスの創刊1周年事業として始まった。崇元寺向かいにあったコンセット社屋で開かれた初回は、絵画のみの展示で、会期も2日間と短かったが、約1万5千人が詰め掛けた。

 戦後初めて開かれた本格的な美術展が、芸術文化を渇望する人々の心を潤したのだろう。精神文化や生きる喜びにつながる「表現の力」に励まされた人も多かったという。

 絵画展としてスタートを切った沖展は、その後、彫刻、工芸、書芸、写真、グラフィックデザイン、版画が加わる総合展に発展した。

 沖展を足場に活躍した人の中から、金城次郎さんら人間国宝も生まれている。

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 70回の記念展には、一般の入賞・入選作品と沖展会員・準会員の作品826点が展示される。

 沖展の特徴は何といっても沖縄の自然や文化、生活から着想を得た作品が多いことだ。美しさに感動する作品もあれば、思わず顔がほころぶ作品もあり、社会的メッセージの強い作品も並ぶ。

 芸術は人間が人間らしく生きるためのよりどころのようなものである。

 困難な時代に人々の足元を照らしてきた歴史の重みをかみしめ、思いを受け継いでいきたい。

沖展開催70周年を記念して、ウェブサイトを公開。これまでに開催された展覧会の図録を閲覧いただけるよう、デジタルアーカイブとして公開します。 >>「沖展オフィシャルサイト」

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