安倍晋三首相が参院選後の憲法改正にぴたり照準を合わせてきた。

 安倍首相は10日放送のNHK番組で、夏の参院選では自民、公明両党のほか、おおさか維新の会など憲法改正に賛同する政党を合わせ、改正発議に必要な3分の2の議席を目指す考えを表明した。

 軽減税率協議で公明党の主張を受け入れたことも、所得の低いお年寄りに対する3万円の現金給付も、年明け早々の国会召集も、すべて参院選を意識したもので、その先にあるのは憲法改正だ。

 改憲勢力の結集を目指す一方、首相は具体的な改憲項目に関し「これから議論が深まっていくだろう」と述べるにとどめている。

 自民党が改憲の優先項目としているのは、大災害や外国からの武力攻撃に対処するため政府の権限を強化する「緊急事態条項」の創設である。

 地震やテロが発生した場合に備えてと言えば、国民の理解が得やすいと考えているのだろう。本丸の9条改正の抵抗感を和らげたいとの思惑が透ける。

 集団的自衛権の行使を盛り込んだ安全保障関連法について政府は、フルスペック(全面的)行使はないと強調してきた。9条改正によって全面的行使が可能になれば、あの議論は何だったのかということになる。 

 憲法という「国家の根本」に手を付けようというのだから、議論の前提として憲法のどの部分をどのように変えようとしているのか、今国会で自民党の考えを明確にする必要がある。

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 憲法改正にあたっては、どの政権が改憲しようとしているのか、政権の性格を見極めることも重要である。

 安倍氏は第2次安倍内閣が誕生する直前のネット番組で現行憲法を「みっともない憲法」と酷評。2013年12月に共著で出版した本では立憲主義を「古色蒼然(そうぜん)とした考え方」と批判した。14年7月、解釈改憲によって集団的自衛権の行使を容認。15年3月の参院予算委員会では、自衛隊を「わが軍」と表現した。

 国会議員には憲法99条でその尊重・擁護義務が定められているというのに憲法軽視が目に余る。

 行政権に対するチェックアンドバランスが健全に働いていない状況で、立憲主義に対する理解を欠いた政権が、9条を改正して憲法の縛りを取り払おうとするのは危うい。

 集団的自衛権が全面的行使となった時、最大の影響を受けるのは沖縄である。

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 日本国憲法を審議した戦後の衆議院に沖縄選出の議員はいなかった。県民代表不在の国会で成立したのが現憲法だ。

 しかも復帰まで憲法は適用されず、その間、米軍統治下にあった沖縄では広大な基地建設が進んだ。復帰後も日米地位協定と関連取り決めによって「基地の自由使用」が保障され、さまざまな権利が制約を受けてきた。

 地位協定には触れず、米軍に対する従属的姿勢を温存したまま9条が改正されれば、沖縄に与える影響は計り知れない。