タイムス×クロス コラム

琉球ゴールデンキングスの熱く激しき日々(1)

2018年3月23日 13:02
渡瀬 夏彦
渡瀬 夏彦(わたせ なつひこ)
ノンフィクションライター

1959年埼玉県生まれ。高校3年のときに「与那国島サトウキビ刈り援農隊」に参加して以来、約28年間沖縄通いを続け、2006年に移住。『銀の夢 オグリキャップに賭けた人々』で講談社ノンフィクション賞とJRA馬事文化賞を受賞。他の著書に『修羅の華 辰吉丈一郎がゆく』(講談社)、共著書に『誰が日本を支配するのか!? 沖縄と国家統合』(マガジンハウス)など。普天間問題からスポーツ(琉球ゴールデンキングス、琉球コラソン、FC琉球、高校野球、ボクシング等)まで、幅広いジャンルで雑誌、新聞等にドキュメントやコラムを執筆。関心は、脱基地、脱原発から、沖縄文化、自然、芸術・芸能・音楽、スポーツまで多岐にわたり、Facebook、Twitterやブログ「渡瀬夏彦の沖縄チムワサワサ~日記」(http://watanatsu.ti-da.net/)でも情報発信。現在、沖縄を舞台にした複数のノンフィクション作品を構想中。「沖縄戦・精神保健研究会」会員。

◇はじめに

 Bリーグ2年目のシーズンが開幕したのは昨年9月だった。

佐々宜央HC(筆者撮影)

琉球ゴールデンキングス(筆者撮影)

佐々宜央HC(筆者撮影)

佐々宜央HC(筆者撮影) 琉球ゴールデンキングス(筆者撮影) 佐々宜央HC(筆者撮影)

 今季の取材がスタートしたのは、7月27日の佐々宜央ヘッドコーチ(以下HC)就任記者会見に参加した時だから、すでに8カ月も新生・琉球キングスを追いかけ続けていることになる。

 現在われらがキングスの戦績は、西地区で断トツ1位の34勝10敗。リーグ全体を見ても18チーム中、中地区首位・シーホース三河の36勝8敗に次ぐ2位。このレギュラーシーズンにおいて16試合を残す3月18日現在、地区優勝までのマジックは10である。チャンピオンシップ進出をリーグ一番乗りで決めている。

 この8カ月で見えてきた今季のキングスの強さの本質をこの連載の中で少しずつ明らかにしていきたいのだが、まずは、チームの「メンタル」について記していこうと思う。そのときに欠かせない大きな要素は、佐々HCの得難い個性と能力である。

 あの夏の就任会見を振り返るところから始めよう。

【佐々宜央ヘッドコーチの手腕】

 佐々HCの挨拶(あいさつ)第一声はこうだった。

 「琉球キングスは、沖縄県の象徴のような存在で、県民から愛されているチームだと思います。そのチームにとって大きな存在の一部になれて、自分の力が何かチームの助けになるということは、とても幸せなことです。ゴールデンキングスと沖縄県に貢献していきたい、と思います」

 おそらくは、球団フロントとのコミュニケーションも充分に取れていたのだろう。キングスというチームがいかに沖縄県民にとって大切な存在になっているか。そのことをしっかり把握した上での優等生的発言とも言えた。

 しかし、佐々宜央は、ただの優等生ではなかった。

 33歳の若きリーダーらしく、自身の志の高さと情熱の大きさを隠そうとはしなかった。

 「ゴールデンキングスは日本全体の中でも大きなチームですから、そういうところから声をかけていただけるとは思ってもいなかったので、驚きでした。でも、内心はおぉ来たか!という感じで、即決でしたね。初めてHCをやることになるので、緊張感はあります。だけど、こんな素晴らしいチームでHCをやれることを、むしろ楽しみにしています」

 ちょっぴりやんちゃさを匂わせつつも、社会人としての礼儀をわきまえ、はきはきと言葉を弾ませる記者会見。わたしはこの瞬間から、佐々宜央という人物の個性に大いに関心を抱いた。

 名門チームや日本代表でアシスタントコーチを務めてきたとはいえ、リーダーとしての実力に関してはまだ半信半疑の段階である。

 それに、白状すれば、おそらくは少なくないファンがそうであったように、「ロストチーム症候群」とでも呼べるような状態から完全には抜け出せていない時期だ。具体的に書けば、前任の「ムーさん」こと伊佐勉HCや馴染(なじ)みの選手たちがごっそり抜けた喪失感はやはりどうしたってある。

 だがそんな気分を一気に吹き飛ばしてくれるような快活さや茶目っ気を、新HCは持っていた。

 そのような象徴的な意味合いを含んだ記者会見だったので、あえてじっくりと振り返ってみたい。

 佐々HCはこのように話を続けた。

 「昨年も、ファイナル4に入れるぐらいの力を見せましたよね。ただ厳しいことを言うようですが、オフェンス面で非常に長けている部分があるけれど、いまは守備の面での力が欠けているのかな、と思います。これから守備の面でどれだけ規律を保てるのか、という課題があります」

 「どういうチームにするのか、という質問を関係者からされることがありますが、わかりません、と答えています。どんなに立派な戦術でも、チームにいる選手に合わなかったらなんにもなりませんからね。そういう意味では、岸本選手や田代選手といった既存の選手の長所は今シーズンも見られると思います。新しく入った選手にはフィジカル面で長けている存在も多いし、楽しみです。いずれにしても、元々いる選手も僕を慕って来てくれた選手も、心の部分でいい選手が多いと思います。サイズがちっちゃいんじゃないか、という意見もあるかもしれませんが、心の面でカバーできるチームだと思います」

 古川孝敏、アイラ・ブラウン両選手が日本代表に選ばれていることに触れつつ、今後その可能性のある選手はいるか、と水を向けられたときには、こう答えた。

 「たとえば、古川選手とは長い付き合いですが、彼がずば抜けて凄(すご)い選手かと言えば、どうでしょうか。むしろ僕は古川がどれだけ努力してきた選手かということを知っています。そういう意味では、元々キングスにいるみんなに言いたいのは、古川のようにハードワークをして、そういう世界に早く入っていってほしい、ということです。みんなに代表レベル、世界レベルを目指してほしいです」

 「優勝」の二文字への意識を問われたときは、こう話した。

 「優勝、優勝と言ってそうなれるもんじゃないけど、毎日毎日の目標に食らいつくことはできる。そう思っています。これまでを見ているとプレーオフに強いキングスなので、それはチームの勢い、ファンの勢いがあるということなので、そういう強さを既存の選手には出してほしい。沖縄のファンは本当にバスケを愛しているから、力を持っている。ですからここでプレーオフを開催して、ファンの力も借りて、みんなで上へ、行けるところまでいきたいと思います」

 沖縄のファンは本当にバスケを愛していて、本気でチームを支えてくれる。それは、キングスのHCなら、誰もが感じることだろう。

 この会見の時点では、「HCとしての仕事をこなしてまだ1週間ほど」とのことだったが、すでにそう意識しているのだった。

 「僕はアシスタントコーチの頃からアグレッシブな性格だったので、姿勢に変わりはありませんけど、大変なのはやはり、練習メニューをしっかり考えること、ですね」

 さらに一問一答が続いた。
 ——これまでの経験から、戦術面、メンタル面で特にチーム伝えたいことは何か。

 「沖縄のために働きたいという思いはあるけれど、トップリーグに欠けているものが何かと考えたとき、国際的に見ても、球際の強さとかルーズボールへの姿勢とか体のぶつかり合いとか、そういう厳しさが求められているんだと思います。高校や大学には、必ず『体を削って』頑張るタイプの選手がいる。だけど、トップリーグや代表チームになるとみんなスター選手ばっかりで、なかなかそういう選手が見つけにくくなる。ですから、キーワードとしては、闘え、ひるむな!ということですね。戦術以前に闘う姿勢を強調したいと思います」

 ——佐々さんにとってバスケの魅力とは?

 「1人で何かの達成感を味わうことは誰でもある程度できることですが、チームで成し遂げて喜びを分かち合うって、なかなかできないことでしょう。何事かを成し遂げるために、どうやって価値観を一つにしていくか、それが重要なポイントだと思います」

 そうして最後に、ある記者がこう尋ねた。

 ——ご自身が脂の乗った状態でキングスと出会えたと思われますか?

 「うーん、どういうたとえをしたらいいですかね」と笑ってから、佐々HCはこう続けた。

 「中トロに成り切れない赤身のマグロという感じじゃないですかね(笑)。自分の新鮮さは大事にしたいけど、しかし今は危機感しかないですね。学生時代から数えて15年近くのコーチ生活の中で、確立したものがあるとすれば、それは気持ちの面かと思いますが、大きな戦術とかは、まだまだこれからです。もちろん迷いがあるわけではないですし、中途半端な姿勢でゲームを見せるということはないと思います。ただ、まだペーペーのHCだと思っているという意味です。キングスで大トロになれたらいいな、と思います」

 初めての記者会見を終えての印象は、ずばり「賢い人」だった。

 この人が選手たちに対してどのようにメンタルの重要性を説きつつ、鼓舞し、能力を開花させていくのか、強い関心を抱かせるものがあった。

 というわけで、就任記者会見をしっかり振り返るだけで、かなりのスペースを要してしまった。次回以降は、折々の佐々HCの言葉と、選手たちがHCの期待にどう応えようとしているのかを伝えていきたい。

 最近のゲームに少し触れておくと、3月10日、11日、キングスは三遠フェニックスとのアウェイでのゲームで連敗を喫してしまった。ともに終了間際に僅(わず)か2点差をつけられての悔しい敗北。連敗は、昨年10月21日、22日の島根スサノオマジック戦以来のことだった。

 録画映像をじっくり見たのは数日後だったが、ひとつのターンオーバー、一瞬の集中力が、いかにゲーム全体に影響を及ぼすか。改めて痛感させられる2試合だった。

 翌週3月17日、18日は、島根スサノオマジックを迎えてのホームゲーム。

 それぞれ77対57、82対58でキングスが快勝したのだが、1戦目(17日)の試合後記者会見で、わたしは佐々HCに、悔しい連敗のあと、チームの「メンタル」をどのように切り替えることができたのか、問うた。彼はこう答えた。

 「昨日の時点でチャンピオンシップ出場が決まったわけですが、試合前に選手たちに話したのは、去年の今頃の琉球のメンバーの気持ちはどうだったのか、という点です。チャンピオンシップ出場をかけて、もう一試合も負けられないという気持ちで戦っていたんじゃないのか、と」

 たしかに昨シーズンは、西地区2位の座を大阪とギリギリまで争っていた。その緊張感を今現在の琉球は持てているのか、との問いかけである。

 その上でデーゲームの「千葉ジェッツvs.栃木ブレックス」をリアルタイムで視聴しての感想を述べていた。

 「凄い試合(73対71で栃木が千葉に勝利)でした。内容は決して良くなかった栃木が、残り3~4分で10点負けていたところから、勝ち切ったわけですが、一試合も負けられないという気持ちで戦っていることが伝わってきました」

 そしてこの日のキングスのゲームを振り返り、厳しい言葉を付け加えることを忘れなかった。

 「たとえば今日のように、フリースローが11本中2本しか決められないようでは、これからの試合、勝てないですよ。ここからもっとメンタルの上で追い込まれていきます。そのとき、どれだけ気持ちを作れるか。一人ひとりが、このままじゃ駄目だと思い、どれだけ緊張感をもって戦えるのか。一つも負けられないという気持ちでやれるか。そこが重要になってくると思います」

 富山グラウジーズを迎えての石垣開催のホームゲームとの連戦を経て、キングスのチーム状態にさらなる変化が生まれるか否か。じっくり見つめてみたい。(つづく)

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