ショーケースに並んだスイーツ。おいしそうです。

 トックリキワタ―。秋から冬にかけて桃色の花が開花する、その木の名前を冠したコーヒー店が1月下旬、国際通りから一本裏道に入ったパラダイス通りにオープンした。

 ガラスの扉を開くと、足元で「home」の文字が出迎えてくれる。木製のショーケースには手作りケーキにミートパイ、ケークサレなどが並ぶ。20席ほどの店内を入り口から眺めると木を使ったものが多く、テーブルにスツール、古材で作ったライトが店内の雰囲気をより温かくしている。

◆初めてなのに、帰りたくない

 2月のはじめのまだ寒かったある日。

 ひとり、ドキドキしながらお店の扉を開く。人見知りで緊張しいの私は、初めてにめっぽう弱い。年を重ねるにつれ、だんだんと「初めて」にチャレンジすることは、大げさだけれど勇気がいることを知る。

ガラス張りで開放感のあるトックリキワタ珈琲店

 ひと呼吸置いて中に入ると、カウンターでほほ笑む店主らしき男性に「好きな席へどうぞ」と促され、まっすぐ奥へ進み、店内をすべて見渡せる場所に陣取った。「人見知りの割に場所の取り方は自己主張が強いな」と座ったあと、反省の弁を心のなかで述べる。

 メニューを席でゆっくり選び、カウンターで注文・料金を支払う。佐賀県武雄産の有機カモミールティー(ホット)とホワイトチョコの抹茶ケーキにした。運ばれてきた抹茶の緑の美しさと、カモミールティーの温かさに安心感すら覚える。

佐賀県武雄産の有機カモミールティーとホワイトチョコの抹茶ケーキ。

 ふたり席がずらりと並ぶ店内には、おひとりさまの男性客や女性客もちらほらいて、居心地のよさを覚えた。真新しい店舗で、こんなにもくつろいだことはない。昼寝も宿題もできそうな気分で、「帰りたくないな」とまで思った。

 何がこの居心地のよさと安心感を与えてくれるのか、その日はわからないまま1時間ほど過ごし、不思議な空間を後にした。

◆店主さんは元教師でした

 あの居心地のよさが忘れられず、再訪したいのに仕事で行けないというジレンマを味わう日々が続いた。

埼玉から沖縄へ移住し、カフェを開いた斎藤さん

 誰かを誘って行きたいけれど、自分ひとりでも過ごしたい―。思いが交錯するその場所へ、2度目は答えを探しにいった。

 店主の斎藤進さんは、埼玉県で高校の国語教師をしていた。定年前に仕事を辞め、沖縄に移住したと話す。やさしい声色と口調、先生だったのもうなずける。

 私の頭にいくつもの「?」が浮かんだ。50代の元教師が、なぜ那覇でカフェを始めたのか。この居心地のいい空間の秘密はなんなのか。

 私の疑問に、斎藤さんはひとつずつ丁寧に答えてくれた。

◆どうして那覇に?

 斎藤さんが埼玉ではなく、沖縄を選んだ理由は二つあった。一つは沖縄との付き合い歴。仕事・プライベート含めると20年ほど沖縄と縁があり、知り合いも多い。

(資料写真)温暖な気候の沖縄。県外からの移住者は増えている。

 もうひとつは健康面。元々老後は暖かい場所を考えていたが、“大人ぜんそく”にかかってしまい授業でせき込むことが増えた。医師の「ハワイがいいけど、国内なら沖縄かな」という言葉に背中を押された。

 当初はロケーションカフェとして、恩納村の住居付きの物件も考えたというが、沖縄県内の知人のアドバイスを受けて那覇に決めた。

 「那覇に移住して、カフェを経営したい」―。埼玉県でその志を共有できそうな共同経営者を探していたら、知人からシステムエンジニア(SE)の宮田知可士さんを紹介された。

 2人は年代もコンセプトも近く、たちまち意気投合。店では斎藤さんがフード、宮田さんはコーヒーと役割分担。フードメニューはすべて、幼いころから料理好きだった斎藤さんのお手製。宮田さんは修行を積み、おいしいコーヒーを淹(い)れる。