「ヘイトスピーチ」(差別的な憎悪表現)の抑止を目的にした全国でも初めての条例が、大阪市議会で、大阪維新の会や公明、共産両党などの賛成多数で可決、成立した。 条例ができたからといってそれが直ちに効果を発揮するとは限らないが、行政が「ヘイトスピーチを見逃さない」との姿勢を示したことを改善への第一歩と受け止めたい。

 どのような内容の言動がへイトスピーチに当たるのか。 大阪市の「ヘイトスピーチへの対処に関する条例」は、特定の人種、民族に属する個人や集団を「社会から排除」すること、「権利または自由を制限」すること、「憎悪、差別の意識、暴力をあおること」などを目的とした表現活動をヘイトスピーチと定義している。

 誰が認定し、どのような処置を講じるのか。

 法律の専門家らで構成する審査会が内容を調査し、ヘイトスピーチだと判断すれば市長が団体名を公表する。

 審査会の中立性を確保するため委員の選任を議会の同意事項としたほか、恣意的な運用を防止するため、表現の自由を不当に侵害しないよう留意することも定めた。

 規制の側面が前面に出すぎると「表現の自由」を脅かしかねず、かといって理念だけの緩すぎる内容では目的を達成することができない。大阪市の条例はこの二つの要請のバランスを取ったことがうかがえる。

 運用後に市民参加の下で課題を点検し、「ヘイトスピーチ・ノー」の共通認識を育ててほしい。

■    ■

 ヘイトスピーチは、在日韓国・朝鮮人が数多く住む東京・新大久保や大阪・鶴橋で、一部の団体が「殺せ」などと叫びながらデモを繰り返したことで、大きな社会問題に発展した。

 聞くに堪えない言葉の暴力によって尊厳をおとしめられ、恐怖を感じた経験を持つ人は多い。名指しされた人々がどれほど身の危険と苦痛を感じてきたか。

 日本は1995年に人種差別撤廃条約に加盟したが、ヘイトスピーチを取り締まる法律がなく、国連人種差別撤廃委員会から再三にわたって、包括的な人種差別禁止法を制定するよう勧告されてきた。

 民主、社民、無所属議員らが昨年5月に提出した「人種差別撤廃施策推進法案」は、与野党の溝を埋めることができず、昨年国会での採決が見送られた経緯がある。大阪市の条例制定を機会に、国会での議論を深めてもらいたい。

■    ■

 ヘイトスピーチが発生する社会的な要因にも目を向けたい。生活保護を受けている人々が不当なバッシングを受けているのは、経済のグローバル化とゼロ成長の下で富の分配が機能せず、閉塞感と不安感が社会に充満していることとも関係がありそうだ。

 ヨーロッパにおける極右政党の台頭も、移民によって雇用を奪われ、賃金が低下させられた、という労働者の不満が背景にある。

 欧米も日本も排外主義にどう立ち向かうかという共通の課題を抱えている。