これまでの連載をまとめてみると、琉球での泡盛の製造上、黒麹(くろこうじ)菌の応用は誠に広大なる恩恵をもたらしただけでなく、この製造方法が広い地球上で琉球のみで成立し、それが日本の鹿児島へと伝播(でんぱ)していったことが分かった。したがって黒麹文化圏という存在は琉球でしか語れない文化遺産ということになる。

 前回述べた通り、この黒麹菌は琉球(沖縄本島、それを取り巻く南西諸島、さらに宮古列島や八重山列島を含む先島諸島一帯)に特異的に生息分布する有用菌である。この黒麹菌が学問的に最初にスポットが当てられたのは1901年のことで、東京帝大乾環(いぬいたまき)が初めて分離し、その学名をAspergillus luchuensis(アスペルギルス・リューチューエンシス)と命名した。

 琉球にちなんだ学名を付したのだが、その後Aspergillus awamori(アワモリ)やAspergillus saitoi(サイトイ)などとなった。その後しばらくして、いったんAspergillus awamoriに統一されたが、2013年、国際微生物連盟はこの菌を1901年の分離時に戻して、国際的にAspergillus luchuensisとして復活させた。琉球にしか存在せず、琉球の地で分離された菌だからである。

 さらにこの琉球のみに生息する泡盛用黒麹菌は、日本の醸造用黄麹菌とともに日本醸造学会より06年に「国菌(こっきん)」に指定されている。

 そして、現在日本の麹菌研究では第一人者である一島英治博士(東北大学名誉教授)によって国菌の意義、麹菌の定義が大要次のように公表された。

 麹菌とは、わが国で醸造および食品等に汎用(はんよう)されている次の菌をいう。

 (1)和名を黄麹菌と称するAspergillus oryzae.黄麹菌は最も古い歴史があり、味噌(みそ)、醤油(しょうゆ)、日本酒、酢、味醂(みりん)などを醸す代表的な菌種。

 (2)黒麹菌(あわもり群)に分類されるAspergillus luchuensis.黒麹菌は沖縄で泡盛の醸造に用いられてきた麹菌である。クエン酸発酵が盛んで、もろみをpH3程度の比較的強い酸性に保つことができる。したがって、発酵途中での雑菌の繁殖を防ぐ効果がある。

 このように国菌に選ばれた黒麹菌は、蒸した米(タイ産米)に種麹として撒(ま)かれて約40時間、室(むろ)の中で培養されて黒麹ができる。クエン酸を多含するので、とても酸っぱい麹である。次にこの黒麹を使って泡盛の仕込みをするのである。その仕込みは、大型の仕込みタンクに室から出してきた麹を千キログラムと水1400リットルを入れ、それに種醪(たねもろみ)(アルコール発酵が完了した蒸留直前の醪。この中には焼酎酵母が多量に生息している)を加えて発酵させると、15~20日で醪の発酵と熟成は終わる(この時のアルコールは18~19%)。種醪の代わりに、焼酎酵母を純粋培養して添加することも最近は圧倒的に多くなっている。また発酵中は、タンクの周りに水を通して冷やしながら醪の管理をするところが最近では多くなってきた。

 発酵を終了した醪は、蒸留器で蒸留される。蒸留方法はほとんどが蒸留釜に入れた醪に直接蒸気を吹き込む簡単な単式蒸留器を使っているが、最近では泡盛のクセを取るというので、減圧式の蒸留器で蒸留する酒造家も現れるようになってきた。「前垂(まえだ)れ」という最初に出てくる蒸留液(初留液)を除き、中留区分の「本垂(ほんだ)れ」を良酒とし、最後に出てくる「末垂(すえだ)れ」も除く。こうして得られた泡盛は甕に入れられて貯蔵されるが、今日では甕を使わずにステンレス製のタンクに貯蔵しているところが多くなった。

 次回からは「泡盛の周辺に見る固有の技術と飲食文化」を語る。