今回は、泡盛製造の周辺にみる固有の技術について語ることにしよう。そこからは、いかにこの蒸留酒が他の焼酎あるいは世界の蒸留とは明らかに違っていて、固有の醸し方がいくつも見えてくる。

 【使用する原料の固有性】

 泡盛製造には、古くから外国産(タイ)の米を使うことに固有性を持っている。これは歴史上、シャム(タイ)との交易があったためとも考えられるが、技術的視点からみるとタイの米はインディカ系で、硬質米であるため蒸してもさらさらしている。そこに黒麹(こうじ)菌が繁殖して米麹となるとき、とても作業しやすくなることや、蒸米がかなり乾燥しても黒麹菌の特性でよく繁殖し、水分を好む有害菌の阻止にもつながっている。

 また、この米でつくった黒麹に水と酵母を加えて発酵すると、麹はすぐに溶けてしまうことなく、醪(もろみ)はじっくりと発酵することができ、発酵管理がしやすい利点があるのだ。

 その上、タイの米を使うと泡盛特有の香りを出すことができるので、貴重な原料ともなっているのである。

 【クエン酸溶液中で発酵させる特殊性】

 すでに述べたが、泡盛用黒麹菌は多量のクエン酸を生成して麹の中に残していく。従ってその麹で仕込むと醪は酸(す)っぱくなって、なめるとブルルと身が震えるほどである。日本酒の酸度が1・5ミリリットル、中国の紹興酒で6ミリリットル、そしてあの酸味の強いワインでさえ、その酸度は5~7ミリリットルくらいだというのに、泡盛の一次醪の酸度は実に20ミリリットルを超すのである。気温が高いと、酒を腐造させる腐敗菌や有害な雑菌が活発に活動するので、日本酒造りはそれらの微生物があまり活動しない冬の間だけ行われる。いわゆる「寒仕込(かんじこ)み」である。

 ところが泡盛造りは、一年中気温が高く、暑い沖縄で、年間を通じて行われている。これは、醪を腐らせる有害菌は酸性に弱いのでクエン酸の存在下では繁殖できず、泡盛酵母のみが強健に発酵して酒ができるのである。このような蒸留酒の造り方は、世界には他例がなく独自性の強いものなのである。

 【シー汁浸漬(しんし)というすごい技】

 今はあまり行わないが、古式泡盛製造法のひとつが「シー汁浸漬」である。昭和30年ごろまではどの蔵元でも行っていた。原料米を水に長時間浸しておくと、そのうちに空気中に浮遊していた乳酸菌が落下してきて繁殖し、乳酸をつくるため浸漬汁は酸っぱくなる。シー汁の「シー」は酸っぱい、という沖縄の方言である(シークワサーのシーと同じ意味)。

 こうなると、原料米は乳酸を吸収して酸性となり、硬いタイ米を蒸しやすくすると共に、麹をつくるときに雑菌の侵入を抑え、黒麹菌の繁殖をじっくりと導き、理想の麹ができるのである。この方法は、麹菌と酵母と乳酸菌という三大醸造微生物を使う複雑なもので、日本酒の生〓(きもと)造りと酷似している。

 次回は、さらに驚きの固有の技術を述べる。

※(注=〓はへんが「酉」でつくりが「元」)