前回に引き続き、今回も泡盛製造周辺にみる固有の技術について語る。

 【驚異の熟成法】

 泡盛の熟成には、熟度の異なる酒をブレンドしながら進めていくという知恵に満ちた驚くべき技法を持っている。そしてその熟成期間によって「古酒(クース)」の名称が与えられるほどで、その古酒としての資格は「3年以上の熟成を行ったもの」という定義がある。

 「3年」と決めたのには理由があり、3年を経ると味は丸くなり、風格は堂々として強いが芳醇(ほうじゅん)で、優雅な香りがついてくるためである。特に香気は蒸留酒の生命のようなものであるが、3年を経ると、蒸留直後の気になる匂い(油臭(あぶらしゅう)やアルデヒド臭)が消えて、泡盛独特の「古酒香」が全体に出てくるのである。さらに泡盛の場合、この古酒の誕生には独特の熟成技術も関わっている。

 まず「親酒(おやさけ)」とするため、古酒向けのすばらしい新酒を選び、それを大きな南蛮甕(なんばんがめ)に満たして密封し、土中に埋める(今は多くは地下貯蔵室を持っているので埋めるところは少なくなった)。沖縄は大気温の高いところであるが、土中は大気よりずっと低く、しかも年中一定であることに注目したからである。以下、こうしてすばらしい古酒に育つと見込んだ新酒を毎年1本ずつ埋めていくのである。5番手までの酒が埋められ、6年たった時に、その親酒だけが掘り出される。その親酒は、汲(く)み出したり、甕に染み込んだり、自然に蒸発したりして目減りする。それを補充するのだが、ここに新しい酒を注いだら、せっかく大切に育てた親酒は台無しになる。そこで親酒の次に古い2番手で補い、2番手の減った分は3番手で補充するのである。こうして順次補充していって、最後の5番手は新酒で補充することになっている。このような方法を「仕次ぎ」といい、いかに熟成の重要さを考えているかがうかがえる技法である。

 実はこの熟成の方法はスペインのシェリー酒(ワインの一種)と全くといってよいほど同じであって、その偶然に驚かされる。シェリーの入った樽(たる)を3段、4段と重ね、最下段のシェリーを引き出すと、順次すぐ上の段から補充していき、最上段には新しいシェリーを入れておく、「ソレラ・システム」というブレンド熟成法である。約1万キロメートルも離れた日本の沖縄とスペインで同じように行われているこの手法は、常に最良の酒を求めたいという人間の欲求が、いかに共通で強いものであるかを示すものといえよう。とにもかくにも、この知恵の深い熟成法は、泡盛製造技法の中でも特筆されるべき固有性を持っている。

 【全麹(こうじ)仕込みという大胆さ】

 鹿児島県や宮崎県の芋焼酎は芋と米麹と水を、熊本県の球磨(くま)焼酎は米と米麹と水を、大分県の麦焼酎は麦と米麹と水を原料に使うのであるが、泡盛だけは米でつくった黒麹と水だけが原料なのである。つまり、仕込みタンクの中で黒麹と水だけで発酵させ、蒸留したのが泡盛なのである。従って得られた酒は黒麹の良さだけが大いに主張することとなり、味が濃厚で香りの高い、すばらしい南国の名酒が得られるのである。

 以上のように、泡盛製造における特殊な技法は、他の焼酎あるいは世界の蒸留酒には全く見られない固有のものであり、文化遺産として大いに評価されるべきものである。

 次回からは、いよいよ泡盛周辺に漂う固有の飲酒文化について述べることにする。