2019年度から中学校の授業で使われる「特別の教科 道徳」教科書の初の検定結果が公表された。8社が申請した30冊が合格し、全ての教科書が、いじめに関する内容を扱った。

 個人の価値観にも関わる道徳を評定の対象とする「教科化」については、考え方を押し付ける結果になると危惧する声が根強い。昨年の小学校道徳に続く中学校の検定結果は、教科化の影響を見定める一つとして注目されていた。

 道徳は学習指導要領で「節度、節制」「友情、信頼」「国を愛し、伝統と文化を尊重」など22項目で教えるべき要素を満たさなければならないとされている。指導要領に照らして、文科省の審議会が中学校道徳教科書に付けた検定意見は184件。修正を求められたのは7件で、小学校道徳の43件から激減した。

 「節度、節制」の項目で「安全」に関する記述が足りないと判断されたある教科書は、検定意見を受け、障がい者に関するコラムを削除し、自転車の交通安全に関するコラムに差し替えた。しかし関係者は、「節度、節制」をテーマとする内容でなぜ「安全」に触れる必要があるのか-と首をかしげる。

 道徳心は、教科書を読めば育まれるわけではない。学校生活はもちろん家庭も含め、生徒一人一人が日ごろの振る舞いを考える自由な議論や時間こそ必要だ。文科省は、検定で画一的な正解を求めようとすればするほど、道徳の授業に必要な柔軟さを失う危険性があることを自覚すべきだ。

■    ■

 各社の教科書は、人気漫画を使ったり、東京五輪や東日本大震災など社会問題を取り上げ工夫を凝らした。一部の教科書は性的少数者や同性婚を描き、自分らしく生きる大切さを伝えた。命の大切さや愛郷心を学ぶ教材として沖縄関連の話題を掲載した教科書もあった。

 全体的に文科省が掲げる「考え、議論する道徳」を意識した内容だ。8社中5社が、巻末などで生徒が数値や記号で「自己評価」する欄も設けた。

 ただ、道徳の授業時間は週50分で年35回と、他教科に比べ格段に少ない。多様なテーマを掘り下げ評定に結び付けるには、あまりに足りない。

 道徳の評定は、生徒の理解度を基に記述式で行われる。教師から「内面の成長に気付き、評価できるのか」など不安の声が上がるのは当然だ。

■    ■

 正誤を単純に当てはめる評価は道徳にはそぐわない。生徒を励まし後押しする視点が求められるが、教師が忙しすぎる現状では道徳の成熟や評定は難しい。学校は、授業時間以外でも教師が生徒と向き合える時間を、今以上に確保する必要がある。

 道徳の教科化は、2011年に大津市で起きた中学2年生のいじめ自殺を契機に政府が打ち出した。いじめ問題一つをとってもなかなかなくならない現実を見れば、道徳心は一朝一夕では身に付かないことが分かる。教科書はあくまで教材の一つ。それを材料にした創造性あふれる授業を期待したい。