■二重効果論と利益衡量

辺野古代執行訴訟の第2回口頭弁論の開廷を待つ沖縄県の弁護団=2016年1月8日午後2時、福岡高等裁判所那覇支部の第201号法廷(代表撮影)

 公定力理論の終焉は、オットー・マイヤーの「憲法変われど、行政法変わらず」ではなく、「憲法変わり、行政法も変わる」によって生まれた。そしてそれは国側の公定力論だけでなく、それに引き続く「利益考量論」にも変化をもたらす。

 そこでもう一度、国側の利益考量論を復習しておくと、原則、仲井真知事の処分は取り消せない。やむを得ず翁長知事がこれを取り消す場合には、取り消したほうが圧倒的に国民の利益になる、ということを証明しなければならない、というのであった。これについて国側は、軍事をめぐる日米双方の国益を筆頭に置き、これに勝る価値はほかに存在しない、としていた。

 しかし、裁判は政治の場ではなく法律の場である。法律の場であるということは、軍事が上か、ジュゴンが上かというような命題を「裸」で持ち出すのではなく、あくまで両知事の処分が公有水面埋立法に照らして、合法・正当かということ判断するということなのである。この点はまず、国側の主張が公定力理論にこだわりすぎたためか、冒頭に見たように、いきなり利益衡量論として日米双方の国益などを持ち出すようなそれこそ、自ら県を批判してやまない「政治論」に堕してしまっているのではないか。これが第一の問題点である。次いで、公有水面埋立法の下での解釈にあたっても、国側の主張はいかにも公定力論に引きずられているようである。

 オットー・マイヤーの時代、あるいは日本の戦前あるいは戦後初期まで、行政は、国家と国民・個人の間を規律するものであった。そこでは、行政の国民に対する優越性が認められていた。日本の多くの学者が追随したのも、この行政法が「国家と国民の関係」つまり二面的な関係を規律する法である、という観念が前提になっていた。しかし、先に見たように現代の行政は、国家と国民の関係を大幅に、しかも質的に転換させている。

 公有水面埋め立てについてみれば、埋め立て自体は、確かに、国家と国民(沖縄防衛局はそもそも国民かという根源的な問題はここでは触れない。以下、受益者とする)の関係の問題である。しかし問題は、現代の行政の困難は、国と受益者以外にこの行為によって不利益を受ける国民(環境や財政あるいは文化といったようなものも含む)というものを無視できない、ということなのである。これは先の二面的関係に比していえば三面関係から成り立っているといってよい。これを学界では「二重効果論」という。

 二面関係から三面関係へ、このような行政の本質に変化が認められるようになったのは、それこそ国民の側からの、工場建設の認可と公害の発生、薬の認可と薬害あるいは、商品表示と消費者、そしてダム、道路、埋め立てなどをめぐる公共事業と強制移転や環境破壊などの問題提起があったからである。不利益者の存在とその法的位置づけの重要性はもはや行政だけでなく、裁判所にとっても、また議会にとっても回避できないものになっている。

 二重効果論に即していえば

(1) 古典的な行政法理論では、不利益を受けるものの、法による行為で国民が間接的に受ける利益は「反射的」なものにすぎないとして無視した。

(2)無視された側は、情報公開、人権侵害などの実態の宣伝、審議会などへの参加要求、議会での追及などを開始し、不服審査や裁判を行うようになった。

(3)政府もこれら国民の要求や運動により、次第に情報公開法、不服審査・行政事件訴訟法などの一般法の制改定、さらには裁判所による原告適格の拡大や処分の取り消し、さらには行政処分に対する様々な懐疑を生み出し、

(4)河川法など一部実定法の改正や自治体による条例の制改定

などとして発展し、具体化されていっているのである。

 この流れを概括的に言えば、受益者だけでなく、不利益を被る国民も「対等」に行政処分の当事者として位置づけられる、というものであり、場合によって、受益者が受ける利益よりも、国民の受ける不利益が大である場合には、処分は行われないし、すでに行われた処分を取消しあるいは撤回もありうるということなのである。ここには国家の国民に対する優越性とか、受益者は保護されるが不利益者は保護されない、などという法理論は存在し得なくなったということを確認しておこう。

■代執行訴訟はこう見る

 そして、このような視点で代執行裁判を見ると、国側の公定力理論とそれに引き続く利益衡量論は、この受益者・沖縄防衛局の利益にのみ固執し、対等な当事者である国民を軽視。さらに公有水面埋立法の下での法的な利益考量を飛び越えていきなり政治論を行っているように見えるのである。

 反対に、このような視点で見ると、私が世界2015年12月号「沖縄・辺野古 公有水面埋め立て承認の取り消しを考える」で分析・解説したように、翁長知事が任命した第三者委員会の「検証検査報告書」(2015年7月16日)は、この二重効果論の展開に誠実に答える優れた傑作である、と思えて仕方がないのである。報告書の結論は公有水面埋立法の下で、利益者と国民の利益考量を行った結果、仲井真前知事の処分には「法的な瑕疵がある」、つまり「違法」であるということであった。国も県も、この点について世界最高の「知と証拠」を持って正々堂々議論する、というのが私が先に指摘した「本格的な法廷論争」という意味なのである。