政府は働き方改革関連法案を閣議決定し、国会に提出した。法案の柱は(1)罰則付きの時間外労働(残業)の上限規制(2)同一労働同一賃金の導入(3)「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」創設-。

 当初、盛り込む予定だった裁量労働制の適用業種拡大は全面削除に追い込まれた。

 実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ労使で定めた時間を働いたとみなす制度。裁量労働者と一般労働者で手法の異なる調査をし、不適切なデータや異常値が多数発覚したためだ。

 安倍晋三首相は国会審議で「裁量制で働く人の労働時間は一般労働者より短い」と強弁し押し通そうとした。政権の体質が表れている。

 裁量労働制が削除されても法案には長時間労働の懸念が残る。高プロである。

 高プロは年収1075万円以上で、金融ディーラーや経営コンサルタントなどを想定。裁量労働制では深夜・休日労働に対する割増賃金の支払い義務が残っていたが、高プロでは残業代を支払う必要がなくなる。野党が「残業代ゼロ法案」「スーパー裁量労働制」と呼ぶのはこのためだ。

 いったん制度が創設されてしまうと、対象職種は国会を通さず、省令改正だけで決めることができるため、なし崩し的に拡大していくのではないか。高プロも、裁量労働制と同じように法案から全面削除すべきだ。

 残業規制の上限時間も、繁忙期などの特例で「月100時間未満」まで可能だ。労災認定の過労死ラインであり、規制とはとても呼べない。

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 働き方改革を巡っては厚生労働省の姿勢にも大きな疑問符が付く。厚労省東京労働局長が会見で報道機関への是正勧告をちらつかせ圧力をかけようとした問題である。

 東京労働局は昨年12月、大手不動産の野村不動産で裁量労働制の違法適用があったとして、同社社長を直接指導する「特別指導」を実施したと発表したが、後に同社の調査のきっかけが過労自殺とみられることが明らかになった。東京労働局長は3月末の会見で経緯を問う記者に「何なら皆さんの会社に行って、是正勧告してもいいんだけど」と脅すような発言をした。

 厚労省は野村不動産への特別指導を指導・監督の実績としてアピールしながら、きっかけが過労死自殺とみられることには触れない。不都合な真実にふたをする厚労省の姿勢が、労働行政への不信感を高めているのである。

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 なぜ不適切データや異常値が多数発生したのか。加藤勝信厚労相が「なくなった」としていた調査原票がなぜ厚労省の地下室から見つかったのか。これらの検証や説明も十分になされていない。

 共同通信の世論調査で働き方改革関連法案を今国会で成立させるべきかの問いに「必要はない」が69・9%と圧倒的で、「成立させるべきだ」はわずか18・5%にとどまる。

 ほんとうに働く人のためになる法案なのか。与党は野党の対案に真(しん)摯(し)に向き合い、残業時間の上限規制と長時間労働の是正という改革の原点に立ち戻るべきである。