日本女子大学(東京)文学部の松森晶子教授はこの10年間、日本各地の方言をデジタル録音し、音声データの保存に取り組んでいる。「特に面白い」とするのは金武町に残る「金武くとぅば」。「アクセントに際だった特徴がある上に、聞き取りやすい」という。方言の研究や保存、復興に役立つ「音声の語(ご)彙(い)集」の制作が目標で、「金武くとぅばをモデルケースにしたい」と意気込む。(北部報道部・又吉嘉例)

金武くとぅばの話者から単語や文章を聞き取る松森晶子教授(右端)=3月30日、金武町中央公民館

 松森教授によると、金武くとぅばはアクセントの高低や音を延ばす場所により3つの型を持つ。この「3型」は本島北部や奄美大島、徳之島などに残っている一方、那覇や首里になると「2型」に減るという。

 「アクセントの型の数が多い方が、古い言葉の可能性が高い。また、『3型』でも金武と東村川田では同じ言葉でも抑揚が違う」と説明する。「日本語と琉球語は祖先を同じくする『姉妹語』だが、外国語のように違う。各地の言葉の近さや、どう分岐したかを知ることは島々の歴史を学ぶ上でも役立つ」と強調した。

 3月30日、金武町中央公民館では松森教授による金武くとぅばの録音があった。同館長で町文化協会しまくとぅば部会の山城清盛部長が話者4人を集めた。

 この日のテーマは魚介類。例えばシロクラベラなら話者はマイクに「マクブー」と単語を言った後、「マクブーヌサシミ、カミブサヌ(シロクラベラの刺し身を食べたい)」と文章形式でも発声し、会話中のアクセントの変化も記録した。

 金武くとぅばをきっかけに出席者の思い出話も弾む。「ターユー(フナ)をシンジグスイ(煎じ薬)で飲んで、熱が下がってね」、「浜田の浜にスルルグヮー(キビナゴ)がマンディ(いっぱいいて)、バーキ(かご)ですくったよ」-。

 話者の安富祖朝正さん(76)は「金武の方言は家庭でも使われなくなり、このまま消えていくと思う」と危ぶむ。「本ではイントネーションは分からない。こういう(録音の)形でしか残らない」と意義を話した。

 同じく安次富八重子さん(76)も「英語は学校で習うけど、方言は習わないからね。教えるのにも相当な努力が必要」と指摘する。

 当初は研究のための録音だったとする松森教授だが、近年は「話者を探すのに苦労する」と、保存の必要性を強く感じている。「音声は『祖語』をたどるための貴重な資料で、学生の教材にも役立つ。金武くとぅばを劣化しないデジタルデータで、できるだけたくさん残したい」と話した。