私らしく、はたらく(14)吉戸三貴

 「バカじゃないの、契約社員のクセに」。会社員時代、上司に夢を聞かれて「いつかフランスに住んでみたい」と答えたら、冷たい笑いとともに返ってきた反応です。お酒の席とはいえ、あまりの言葉に悔しさと恥ずかしさで真っ赤になったのを覚えています。

 その5年後、私はパリにいました。沖縄県の奨学金でフランスに留学したのです。花の都で、舞台芸術を学びながら沖仏交流の可能性を探る1年は、私とって大きな転機になりました。

 住宅トラブルに巻き込まれるなど大変なこともありましたが、さまざまな出会いに恵まれ、PRの専門家として活動する「今」につながる経験を数多くすることができたからです。

 留学が実現したのは、会社の同僚にフランスに行きたいと話したことがキッカケでした。夢の話はしないと決めていたのに、つい口を滑らせたのです。すぐに後悔しましたが、耳に飛び込んできたのは予想外の答え。「いいね! 行きなよ。フランス」。いやいや、近所のスーパーじゃないんだから! 私の慌てぶりなどお構いなしに同僚はうれしそうに、県の人材育成制度のことを教えてくれました。

 そこからは怒涛(どとう)の展開。仕事の合間に英語と仏語を勉強し、会社から推薦状をもらい、あっという間に試験当日です。合格した時の年齢は受験資格ギリギリ。受かって最初に思ったのは「あのときフランスの話をしなかったら、どうなっていたんだろう」ということです。

 それ以来、夢はできるだけ口に出すようになりました。それだけでうまくいくわけではありませんが、思いを言葉にして誰かに伝えると、意識が高まって行動的になれたり、周囲からのサポートを得やすくなったりして、結果として実現の可能性が高まることを学んだからです。帰国後も、起業やコミュニケーション本の出版、大学院進学など、大切な夢はすべてこの方法でかなえてきました。

 大人になって夢を語るのは簡単ではありません。無限の可能性がある子ども時代と違って、私たちには、仕事やお金、時間など多くの制約があるからです。でも、言葉にして発信することで、とびっきりのヒントや素晴らしい機会をもらえることもあるのです。さあ、声に出して言ってみましょう。「あなたの夢は何ですか?」(コミュニケーションスタイリスト)