沖尚高ボクシング部OBのプロボクサー翁長吾央(35)=大橋=はこのほど、興南高同部OBの羽地克博さん(51)と共同で那覇市内に焼き肉店をオープンした。ボクシングの傍ら、慣れぬ店の切り盛りに奮闘中だ。羽地さんは「この苦しい経験は必ずリングに生きる」と翁長を見守る。店名は2人の師で、興南・沖尚の監督を45年間務めた金城眞吉さん(71)の名前を冠した「しん吉や」。翁長は「この店名を背負った以上、やり切らなきゃいけない」と拳を握る。

師匠・金城眞吉さん(中央)に肩を抱かれ、激励されるオーナーの翁長吾央(右)と羽地克博さん=那覇市久茂地の「しん吉や」

 金銭的に割に合わない競技の代表格であるプロボクシング。年3、4試合で、ファイトマネーは新人で約3万円、日本王者でも50万~80万円。世界王者にならない限り、競技で生計を立てることは不可能だ。

 世界を狙う翁長は現在、IBF世界スーパーフライ級10位。5月に36歳となり、選手として残された時間は多くない。羽地さんは、ボクサー翁長について「技術的には申し分ないが冷徹さが足りない。優し過ぎる性格が、ここぞの場面で出てしまう」と評する。

 選手として詰めの甘さを克服してほしい、さらにセカンドキャリアも考え、社会経験も積んでほしい-。自営業の羽地さんは翁長に「店を開く。一緒にやろう」と声を掛けた。昨年11月から準備が始まり、翁長は従業員約10人を指揮し、店を運営する立場になった。

 オーナーの翁長には、さまざまな責任がかぶさる。万全のサービスを提供するため、甘えはみじんも許されない。スタッフを束ね、時には年上にも厳しいことを言わなきゃいけない-。「35年の人生で、初めての経験。自分の、社会人としての力のなさを毎日痛感している」と明かす。

 羽地さんは、悩む翁長をあえて「放置」する。「お金を稼ぐにはシビアに、時に厳しくならないと。もがいてもがいて、自分で乗り越えてほしい」。それが、ボクサーとしての幅につながると考えるからだ。

 店名に師匠・金城さんの名前を掲げることは2人で決めた。看板を発注する時、「もし、つぶしちゃったらどうしよう」と急に怖くなったが、もう後には引けなかった。

 「しん吉や」という店名を聞かされた金城さんは「もっといい名前があるだろ、考え直せ!」と止めた。でも、2人の決意が固いと知るや「もしお客さんが来なくても、俺のせいにするなよ」と渋い顔で認めた。2人がいない所では「照れくさいけどさ、気持ちがうれしいよ」と笑みをこぼす。

 開店から2カ月半。昼は沖縄そば、夜は焼き肉をメーンに、店は少しずつ軌道に乗り始めた。

 翁長は言う。「かっこ悪くても泥臭くても、勝たなきゃ意味がない。当たり前のことだけど、店を始めてから強く思うようになった」。次戦は3月13日、この心をリングにぶつける。(磯野直)

 「しん吉や」は那覇市久茂地3の29の41。電話098(864)0665。営業は午前10時~午後3時、同6時~翌午前1時。月曜日定休。