交通事故によって四肢まひになったため、筆を口にくわえて水彩画を描き、個展を開く人がいる。沖縄県名護市名護出身の鉢嶺克治さん(46)は、生活介護支援事業所に通いながら作品作りに励む。「施設の環境や周囲の人に恵まれているからできる」と述べ、次回作に意欲を燃やしている。

児童施設「名護わかば園」の仕上げに満足そうな鉢嶺克治さん=名護市内原「とらいあんぐる」

 不慮の事故は20歳の時だった。5年間の入院生活中、医師が下半身まひの患者にパソコン操作を勧めていたのを聞いた。新品のパソコンを購入したが、2年間枕元に置いたまま。その後、肘と肩が動くようになり、やがて特注のマウスで訓練し、文字が打てるようになった。

 退院後は5年間、在宅でパソコンに取り組んだ。30歳で身体障がい者デイサービス「二見の里」に通い始めて訓練を重ね、「ソフトを使って名刺やちらし、キャラクターデザインも作った。でも何だか味気なかった。施設長などから『筆を口にくわえてみたら』とのアドバイスを受け、その気になった」と振り返る。

 動物や人、何でも描いてみた。第1作は携帯電話。「目の前にあったから何げなく描いた」と笑顔で話す。当時施設長だった比嘉達也さん(63)は「鉢嶺さんの作品は人や物に対する感謝の気持ちが表れていた」と絶賛する。

 二見の里から生活介護支援事業所「とらいあんぐる」へ移っても、作品作りの情熱は変わらない。「鉛筆をください」「筆をお願いします」と職員の手を借り、口にくわえさせてもらう。約10年間で200点余を描き、5年前に名護図書館で、今年2月には浦添市美術館で個展を開いた。

 この日、生活支援員で介護福祉士の福島京子さん(50)が筆を鉢嶺さんの口に運んだ。福島さんは「丹精込めて仕上げた作品は温か味がある」と語る。

 鉢嶺さんは「今は児童施設のわかば園の園長が定年退職するので、写真を見ながら施設の外観を描いてプレゼントする」と意欲を示す。「施設の人や家族の助けで絵が描ける。描き上げた時の達成感は形になる。世話になっている周囲の皆さんのおかげ」と楽しそうに筆を口にした。(玉城学通信員)