1995年に育児休業制度が全事業所で義務化されてから約20年。沖縄では制度の導入がいまだ5割に満たない状況です。一方で、合計特殊出生率は日本一。子どもを育てながら働き続けるためには、どのようなことを心がけたらいいのでしょうか。沖縄国際大学経済学部の名嘉座元一教授に聞きました。(聞き手・デジタル部 與那覇里子)

沖縄国際大学経済学部の名嘉座元一教授

公園で遊ぶ親子=2016年2月、那覇市・大石公園

沖縄国際大学経済学部の名嘉座元一教授 公園で遊ぶ親子=2016年2月、那覇市・大石公園

■就業規則がないから育休整備が進まない

―育休が全事業所で義務化されてから約20年たちます。なぜ、導入が遅れているのでしょうか。

 名嘉座 まず、導入しなくてもペナルティーがないことが挙げられます。零細企業は、人員のやりくりも仕事を回すこともきゅうきゅうです。本音としては取ってもらいたくないかもしれません。利益も伸びない中、制度を導入するというのは厳しい現状があります。

 業態によっても違います。零細といっても、IT、小売、製造など多岐にわたります。特にサービス業ほど非常勤や非正規でやりくりしているので、育休についてあまり考えなくてもやっていけているのだと思います。

―育休を導入するには就業規則が必要ですが、作成していない企業もあります。なぜ、進まないのでしょうか。

 名嘉座 就業規則の作成が面倒な上、経営者の勉強不足で休業制度があることを知らないということが挙げられます。経営者に対する啓発が必要です。

 就業規則を作る義務のある10人以上の会社でも、沖縄は約1割が作っていません。就業規則を作っていなくても育休を取れている企業は、お互いの話し合いがうまくいっていると思います。小さい事業所こそ、就業規則がないから融通が利く側面もあります。

 一方で、親戚や家族でやっている企業であれば、身内の申し出を簡単には断れないという部分もあると思います。

■合計特殊出生率の高さと育休導入の低さの矛盾

―制度のない会社で働いた場合、どんな対処法があるでしょうか

 名嘉座 辞めて、ほかの仕事を探すことになると思いますが、一度やめると、正規で働くことは難しい。非正規で食いつないでいくしかなくなります。正社員であれば、いかに継続するかというのがポイントです。

 一方で、女性側の意識にも若干問題があると思います。子供を産んだ後のこと、働いている会社の制度のこと、今後どう生きていくのかといった、ライフプランニングの意識が低いのが現状です。制度を知らなかったために、辞めざるを得なくなります。案外簡単に辞めてしまう人もいます。

 特に子育て中の人の非正規雇用では、労働時間が短くなります。そうなると所得は低くなるし、今までの所得はカバーできないはずです。夫も正規で働いていたらいいですが、必ずしもそうではありません。夫も非正規の場合は生活が不安定で、より厳しい状況ではないでしょうか。育休が取れないと貧困につながる恐れも出てきます。

―育休の導入率は低い一方で、沖縄は合計特殊出生率は日本一です。矛盾しているように思えます。なぜ、このようなことが起きるのでしょうか。

 名嘉座 不思議ですよね。恐らく、両親や親戚が身近にいて、面倒を見てもらえるという気楽さがあるのかもしれません。何とかなると思う県民性も影響している可能性もあります。親に子どもの面倒をみてもらいながら働くという選択もできます。

 でも、親が病気になったり、亡くなったりした場合、面倒を見てもらうことが難しく、次の選択が場当たり的になってしまいます。そのあたりは、若いころから意識が必要です。結構、みなさん綱渡り的な生活を送っています。運だけで何とかなっている人もいますし。そして、誰かが病気したりすると、とたんに貧困状態になってしまいます。誰もが貧困のリスクを抱えています。

―育休を取る男性は沖縄でも今後増えていきますか。

 名嘉座 沖縄で男性が育休を取れるのはまだまだじゃないですか。そういう意識はまだ進んでいないと思います。取得するには抵抗があるでしょうね。

■“二極化”するリクルート

―就職を控えた学生も会社の制度は気にしていますか

 名嘉座 学生も気にしていますよ。特に労働条件、賃金、休暇ですね。企業側はワーク・ライフ・バランスを充実すればするほど、いい人材を確保できるチャンスでもあります。

 東京で調査をしていた時、20~30人規模のIT会社がワーク・ライフ・バランスの大賞を取りました。そのとたん、東大などの有名大学から応募が増えるようになっていったそうです。大きな効果があります。中小企業でも労働条件をよくすれば、いい人材が集まってきます。

 今後は、制度をちゃんと整備している企業と、そうでない企業とで人材獲得が二極化していくことが考えられます。

 人材の出入りが激しいと、企業は、人材を一から育成しないといけないのでコストかかります。経験のある人を継続して雇った方が生産性は上がりますが、休んでいる間、人のやりくりをどうするかという現実的な問題もあります。少ない人数でやりくりしているところほど、補充の問題がやっかいです。

―人材の補充などについて、企業への給付金も充実しているのではないでしょうか

 名嘉座 給付金の事務手続きが面倒で、中小企業は避けている可能性もあります。1人で複数の仕事を兼務していて、例えば、伝票を切ったり、休業制度を申請したり、アンケートに答えたり、仕事がいっぱいあってただでさえ忙しい。その中で、働く環境を考えるセクションがないのではないかと推測します。

 ワーク・ライフ・バランスが充実しているところは、社長の意識が高く、特化したような部署を作っている。担当者を張り付けて、その人がプランニング、企画をやっています。これからはそういう人材が必要だと思います。周りの働く環境を考える人を育てることから変わっていくと思います。

 これからは少しずつ育休制度を導入する企業の割合は上がっていくと思います。今後、労働力人口は減っていくので、簡単に人を手放しても次の人が見つかるかどうか分かりません。いかに人を引きつけるか、定着させられるか、ワーク・ライフ・バランスがこれから重要になっていきます。それができない企業は今後、淘汰されていくかもしれません。

―育休制度を労働者が使いやすくするためにはどうしたらいいのでしょうか?

 名嘉座 教育が大事だと思います。中小の経営者、従業員に対する啓蒙(けいもう)、普及、支援のほか、行政側はセミナーなどを開く必要があります。

 また、今後は働き方が多様になってくると思います。正社員でも短時間労働でワークシェアリングをするような時代になるかもしれません。あまり長く働かなくても、所得も高くなくてもいいというような働き方を希望している労働者もいます。そういう人たちがうまく働いていけるようになれば、育休などの制度が生きてくると思います。そうすれば、育休中の補充もスムーズにできるようになるかもしれません。