新基地建設の埋め立て承認の違法性を争う国と県の代執行訴訟は29日、稲嶺進名護市長が証人尋問に立ち、結審を迎えた。前例のない闘争に「論点が多く、結末は読めない」(県側弁護士)中、裁判所が提示していた「暫定的」な和解案に手続きの期日が加わったより詳細な内容が示された。国側が「絶対にのめない」と息巻く一方、県側は「工事停止」を盛り込む暫定案に前向きな姿勢を堅持。暫定案への評価は正反対で、和解に向けた協議の道筋は不透明なままだ。(政経部・比屋根麻里乃、北部報道部・榮門琴音、東京報道部・大野亨恭)

(右)辺野古代執行訴訟の第5回口頭弁論の開廷を待つ沖縄県の弁護団(左)開廷を待つ国の原告団=29日午後2時ごろ、福岡高裁那覇支部(代表撮影)

 「公約ありきで意見書を作成したわけではない」。証人尋問で、公約を守るために意見書を出したのかと問われた稲嶺市長は、そう断言した。背景にあるのは、政治家として公約を守るにとどまらず、地方自治や民主主義の在り方を全国に問うという責務だ。

 約1カ月前、証人尋問決定の一報を受けた稲嶺市長は、「沖縄から強く言っておかないと」と思いを募らせた。

 証言席に立った稲嶺市長の首元には、勝負時に使うエンジと黒のしま模様のネクタイが締められていた。

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 国側に代執行訴訟、審査請求の取り下げと埋め立て工事の停止を求める暫定的解決案に手続きの期日などを加えた修正暫定案に、県側弁護団は「前向きに検討する方針に変わりはない」と力を込める。

 二つの和解案のうち、内容が非公開の「根本案」は30年以内に返還か軍民共用化する新基地建設が前提。県は「非公開であり検討していない」とするが、「新基地建設阻止」を掲げる県の方針に相いれない内容であることは明らかだ。

 一方、国側はこれまで、いずれの案に対しても見解を明確にしていない。

 県幹部は「そもそも国はどちらの案ものめるわけがない」と、国側が置かれた苦しさを推察する。

 ただ、和解成立が見通せる状況でもない。29日の口頭弁論後の協議で、裁判所は根本案に一切言及しなかったが、暫定案に対する国側の姿勢も示さなかった。別の県幹部は「国側の出方次第だ」と、和解案の行方に気をもむ。

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 「暫定案は県側にだけ有利な和解案だ。裁判所は県寄りだと言わざるを得ない」。防衛省幹部は、暫定案には「絶対に乗れない」と強調し、不快感を示した。

 「乗れない」理由は、暫定案に盛り込まれている「工事の停止」だ。政府関係者の一人は、「ただでさえ遅れている工事をこれ以上延ばすことはできない。米側へも説明できない」と内幕を明かす。

 実際、国と県の訴訟で、辺野古の工事は止まっている。ボーリング調査は1カ所を残すだけで、本体工事に向けた一部実施設計も終えており、「護岸工事にはいつでも着手できる状態」(防衛省関係者)。だが、防衛省内では「工事は早くて判決が出た後の4月下旬」との見方が広がる。

 防衛省幹部は「本当に裁判所は根本案を見限ったのか」と、見えない先行きに懸念を漏らした。

<最終弁論>国「判例に反し違法」 県「取り消しは適法」

 代執行訴訟の終結に際し、原告の国と被告の県は29日、最終弁論で主張を対立させた。国側は翁長雄志知事の埋め立て承認取り消しは、1968年の最高裁判決に反するなど3点を上げ、違法性を強調。県側は米軍基地の集中する沖縄の過重負担の現状、住民生活や自然環境の保全といった観点から承認には法的な瑕疵(かし)があり、その取り消しは適法と訴えた。

 国側は、行政処分の取り消しは例外的にしか認められないとする最高裁判例を引用。翁長知事の承認取り消しで普天間飛行場の危険除去の計画が白紙に戻るなどの不利益と、承認維持で生じる辺野古住民の騒音被害、自然環境への影響といった不利益を比較し、承認を放置することが著しく不当とは言えず翁長知事の取り消しは最高裁判例に反し、違法とした。

 また仲井真弘多前知事の承認に法的な瑕疵はなく、その承認の取り消しは違法と指摘。さらに翁長知事が違法な取り消し処分を自ら取り消すのは困難で、代執行手続き以外に方法がないと主張した。

 県側は、戦後71年に及ぶ米軍基地の過重負担を受けた上、100年以上の耐用年数を持ち、機能強化される基地の建設は「焼け太り」「盗人に追い銭」と厳しく追及。沖縄の将来の発展を考えると、埋め立て承認の要件である「国土利用上適正かつ合理的」とは到底言えないとした。

 また、仲井真前知事の承認には辺野古大浦湾の希少な生態系を保全するという観点が全く欠けていたと主張。辺野古集落への騒音影響が軽微であるという国の評価も、日本政府が米軍の運用に口出しできない実態から「信用性がない」と突っぱねた。代執行手続きの要件で、「知事が是正する見込みがない」という国の主張を「それこそ政治的な議論」と非難した。

 一日も早い是正を訴える国の「緊急性」の考えには「県民の大多数が反対する移設案に固執すること」が普天間返還の遅滞の原因と反論。2022年度以降に完成するという辺野古移設を「危険の放置」と批判し、普天間固定化の言及を「市民の命を人質に国策を強要するもので破廉恥極まりない」と切り捨てた。

■自治の本旨要望、和解協議継続を評価 翁長知事

 翁長雄志知事は29日、代執行訴訟の結審を受けて「裁判所には、地方自治の本旨にのっとった判断を下していただきたい」と要望した。県議会終了後、記者団にコメントを発表した。

 同日、証人尋問に立った稲嶺進名護市長には「(米軍普天間飛行場の)移設をめぐるこれまでの経緯や名護市の現状、辺野古新基地建設問題について詳細な証言をしていただいた」と感謝。

 和解案を引き続き協議することには、「裁判所には双方の話し合いによる解決について格段のご尽力をいただき、感謝申し上げる」と述べた。

 和解案に応じる場合に県民へ説明するかという質問には、終日県議会の対応だったため「どういう話し合いがあったか分からない」と、述べるにとどめた。

■首相「何とかなるなら何回も会う」

 【東京】安倍晋三首相は29日の衆院予算委員会で、名護市辺野古への新基地建設で対立する翁長雄志知事との会談に関し、「会えば何とかなるなら私だって何回も会う。残念ながらそういう状況になっていない」と述べ、翁長氏が新基地建設を認めないため会談しないとの考えを示した。維新の党の江田憲司氏への答弁。

 安倍首相は、政権として沖縄の負担軽減に努力しているとした上で、辺野古が唯一の解決策と重ねて強調した。1996年に日米が普天間飛行場の全面返還で合意した際、橋本龍太郎首相(当時)の秘書官を務めていた江田氏は、翁長氏との会談を重ねるなど沖縄側の理解を得る努力が足りないと安倍首相に指摘した。

■辺野古「従来通り」 菅官房長官

 【東京】菅義偉官房長官は29日の記者会見で、名護市辺野古の新基地建設に伴う埋め立て承認取り消しをめぐる国による代執行訴訟が結審したことに関し、「仲井真(弘多)前知事から辺野古移設に必要な埋め立て承認をいただいた。すでに行政判断は下されたと思っているし、法的に瑕疵(かし)はないと思う」との政府見解をあらためて示した。その上で「政府として移設工事を進めていくという従来の方針に変わりない」と強調した。

 裁判所から示された二つ和解案の検討を続けているかについては、「係争中の事案であり、コメントは控えたい」と述べるにとどめ、明らかにしなかった。