天井からつり下げられた詩句のオブジェに意表を突かれた。那覇市の県立博物館・美術館で、6月24日まで開催中の詩人吉増剛造さんの展示会「涯(ハ)テノ詩聲(ウタゴエ)」では会場に入る前から、新しい詩の可能性を探求してきた表現世界に触れられる

▼文学だけでなく映像作家や写真家、音楽家らと一緒に、ジャンルをまたいだ作品を生み出してきた。細かな文字をつづった紙の上にインクなどをぶちまけ制作された「火ノ刺繍(ししゅう)」は詩であり絵画でもある作品で、文字の形の魅力が浮かび上がる

▼唯一無二の作品群に影響を与えた関連展示も見逃せない。河童(かっぱ)が描かれた芥川龍之介の書画や柳田国男が沖縄から田山花袋(かたい)に出したはがき、良寛や蕪村の掛け軸に芭蕉の書…。本物がずらりと並ぶ

▼宮古島や沖縄各地を訪ね詩や写真などに昇華させてきた吉増さん。「沖縄の方々の記憶の深さや重さには近づけないかも」との思いを抱きながら、「沖縄の心の底に触ろうと工夫し、(表現が)押し出されるように出てきた」と静かに語る

▼印象に残ったのは、一度撮影したネガフィルムを巻き戻し、もう一度シャッターを押す多重露光で撮られた写真。捉えがたい沖縄の姿に真摯(しんし)に向き合う姿勢が伝わる

▼1980年代以降、時間をかけて沖縄に心を寄せ、創作活動の軸に据えている表現者がいることは心強い。(玉城淳)