那覇市ぶんかテンブス館が企画する英語と日本語字幕付きの組踊シリーズが5年目を迎え、観客動員数を伸ばしている。国内外の人々に沖縄の伝統芸能を知ってもらおうとスタート。訳者は試行錯誤しながら、しまくとぅばで紡がれる古典の味わいを伝え続けている。(学芸部・松田興平)

日本語と英語の字幕でせりふと歌意が表示された「花売の縁」=2月、那覇市・テンブスホール

澤岻かほるさん

日本語と英語の字幕でせりふと歌意が表示された「花売の縁」=2月、那覇市・テンブスホール
澤岻かほるさん

 組踊は唱えと呼ばれる演者のせりふと琉球舞踊の所作、琉球古典音楽の生演奏で構成される舞台。

 同館の字幕付き公演は、古典音楽の笛奏者である澤岻かほるさん(49)が英訳を手掛ける。同館が制作した日本語訳に合わせ、場面ごと2言語同時にスクリーンへ投影できるよう、長さを調整して訳する。

 これまで、組踊代表作の英訳が収録される小嶺長則著「能羽(ヌファニ)」(2008年・沖縄ブックサービス)を基本に字幕を制作。未収録の「雪払い」「大城崩」「賢母三遷の巻」などは一から英訳した。

 米軍基地従業員として働きながら芸を磨く澤岻さん。「翻訳のプロではない」と謙遜するが、実演家として、しまくとぅばと向き合いながら英語にも堪能な貴重な存在だ。

 英語は基本的に主語、動詞、目的語が明確。だが、組踊は詩的な言葉と抑制した感情表現、音楽を調和させて情感を描写するため、字幕上で状況を伝えきることは難しいという。

 「字幕で説明的になりすぎると芸術的な要素が損なわれる。でも、最低限流れも伝えないといけない」と、あんばいに気を配る澤岻さん。意訳を心掛けながら、舞台上の表現と掛け合わせて意味が伝わるよう元の表現を生かしている。

 自身が「心揺さぶられる」という組踊「雪払い」の歌で「ああき、夢どやたみ(め)」という一節がある。日本語では「ああ、夢であったのか」、英語は「Oh! Was it a dream?」となる。

 シンプルな訳だが、ヒロインが亡き実母の霊を見てあふれ出す切なさを表す言葉は、舞台上で厳かな調べと合わさると情感があふれでる。

 また組踊「二童敵討」で、護佐丸が酔態で着物を差し出しながら「くりくり」と発する場面がある。日本語では「これこれ」、英語では「Here you are」。言葉にすると単純だが、作中では所作と相まって愛嬌(あいきょう)がにじむ一言だ。

 澤岻さんは英訳で煮詰まる時は同組踊シリーズの指導と出演を担う、重要無形文化財「組踊」保持者の島袋光尋さんから原作について聞き取りし、一語一語を吟味する。「再演の機会があれば、どんどん英訳を練り直したい」と作品の掘り下げに意欲的だ。

 同館によると、組踊公演は字幕表示を取り入れてから観客動員数が増加。公演は09年から始まって年に4~6回上演、字幕は14年に導入した。導入前年の13年は入場客数50人前後の公演もあったが、17年には100人前後になった。

 導入時は観客の舞台への集中を妨げるという懸念もあったという。同館の大城真由子副館長は「事後アンケートで歓迎する声が圧倒的に多かった。伝わらなければ良い芸術が廃れてしまう。今後も取り組み続けたい」と意義を語った。

字幕付き「万歳敵討」5月24日上演午後7時から

 英語、日本語字幕付き組踊公演「万歳敵討」が24日午後7時から那覇市のテンブスホールである。兄弟の敵討ちを題材にした古典代表作の一つ。出演は舞踊家の島袋光尋さんが指導する「尋芸能塾」。劇中の勇壮な舞踊も見どころ。

 入場料は大人1500円、高校生1130円、小中学生750円。問い合わせは同ホール、電話098(868)7810。