沖縄公共政策研究所(安里繁信理事長)は2月26日、「観光戦略をどう描くか。沖縄の強みと弱み」と題し、2016年新春特別セミナーを那覇市のタイムスホールで開いた。元ゴールドマン・サックス証券アナリストで、小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏、リウボウホールディングス社長の糸数剛一氏、JTB沖縄社長の宮島潤一氏が登壇し、外国人観光客の獲得に向けた戦略や課題について意見を交わした。コーディネーターは同研究所の安里理事長が務めた。

ライトアップされた首里城正殿と、雲の切れ間から見える月=那覇市・首里城公園、2015年10月撮影

沖縄観光戦略の長所や課題などの意見を交わすパネリストたち=2月26日、那覇市久茂地・タイムスホール

安里繁信氏(沖縄公共政策研究所理事長)

ライトアップされた首里城正殿と、雲の切れ間から見える月=那覇市・首里城公園、2015年10月撮影 沖縄観光戦略の長所や課題などの意見を交わすパネリストたち=2月26日、那覇市久茂地・タイムスホール 安里繁信氏(沖縄公共政策研究所理事長)

■沖縄の課題

 安里繁信氏 沖縄は観光を基幹産業にうたっている。沖縄観光の課題は。

 デービッド・アトキンソン氏 沖縄だけでなく、ほかの地域も同じだが、大量安売り戦略の傾向がある。富裕層向けの楽しみがない。スーパーはあるが、その上の専門店やブティックなどがない。また、秀逸な沖縄の伝統技術の商品を買いたい場合に、どこにあるか分からない。多様性がまだ整備されていない。

 糸数剛一氏 アジア観光客をメーンターゲットに見た場合に間違いが多い。沖縄を知り尽くして、文化を求めている人もいるが、多くの人は一番近い日本として来る。「日本のあの商品が欲しい、食べたい」と来ているのに沖縄に少ない。沖縄には日本の良質な商品をもっと入れることと、人気がある沖縄の健康食品を軸にアジア客の満足度向上をかなり優先した方がいい。

 宮島潤一氏 ショッピングを除くと、宿泊と食事とエンターテインメントの消費は旅行費の6割弱を占める。ロングステイ客や欧米からの呼び込みで沖縄に足りないものは、主要な航空会社が那覇空港に入っていないこと。欧米から入ってくる足がない。欧米人は最低2週間は滞在し、直接地域にお金が落ちる。欧米マーケットを狙うべきだ。

 安里氏 香港の富裕層がポケットに100万円を入れて沖縄に来ても、欲しいものがなく1円も使わずに帰ると聞いた。彼らが欲しいのは1位が夕張メロン、2位がタラバガニ、3位が(イチゴの)あまおう、4位が神戸牛。日本のトップブランドを消費したい。

 アトキンソン氏 以前、年収数十億円の海外の知人が、開発されていない離島に行きたいと宿泊施設を探したら、1泊2千円だった。そこには泊まれないので、費用を負担するから、砂漠などでも使える高級テントなどの手配を頼んだが断られた。簡単にできませんと言うと、機会が逃げていく。「日本に滞在したい、消費したい」という気持ちに、応えていないし、応えようとしていない。ほかの地域に行ってしまう。

■マーケティング

 安里氏 これまでニーズはどう探ってきたか。

 宮島氏 マーケティングという言葉がまだまだ定着していない。また、サービスという言葉も同様だ。昔、福沢諭吉が奉仕と訳したが、サービスは奉仕ではない。有料。いいサービスを提供して、お金をもうけるという感覚が日本人にはまだまだ欠けている。

 糸数氏 外国客を分析すると国別で買い方に特徴がある。「無印良品」で買うのは中国大陸からの観光客、「フランフラン」は韓国人など。国ごとで違う。客層もひとくくりにできない。まず国別に、次にターゲット別に取り組まないと絶対に駄目。全体の付加価値を上げて、収益を上げていかないといけない。富裕層の取り込みも始めたばかり。マーケティングは一番重要だ。

 安里氏 本政府のマーケティングの調査方法は、空港で帰国前の買い物客や、到着直後の目的地にすぐにでも行きたい人を引き留めて実施している。沖縄も同じ手法でやっている。

 ハワイは日本の手法をばかにしている。ハワイは回答者の精神状況や調査環境を重視し、往復の飛行機の中でアンケートをとっており、冷静な回答をとることができる。適当に声を掛けることがマーケティングではなく、どの状況の中で確度の高い情報を参考にするかどうかで、統計の取り方が違うと学んだ。

 アトキンソン氏 日本は聞きたい情報を聞き出そうとしている。外国人は観光でお邪魔しているという感覚が強く、外交的な発言で、お世辞を言うに決まっている。質問は「次の課題は何ですか。ヒントをください」とすべきだ。

 今ある外国人からの評価も、外国人目線では侮辱的なことを言われているように見える。「ごみが落ちていない」「マンホールが面白い」などは、褒めるところが見つからず答えた、究極的にばかにしていると見ることもできる。日本はデータを取れてなく、読む力もない。

 同時に、日本政府は日本に来ている人にしか調査していない。すでにファンの人に評価を聞いても素晴らしいと言うに決まっている。沖縄や日本で一番大事なのは、欧州など今観光客が訪れていない地域で「なぜ来ないのか」を徹底的に追求することだ。

■振興の具体策

 宮島氏 USJは入場料が7千円かかり、早く乗れるファストパスはさらに7千円必要になる。これは格差かニーズか。バチカン市国の見学には4500円から1万2千円の段階がある。自分に見合ったところに対価を払ってサービスを受けるのは当たり前だが日本で差をつけることを格差と考える。

 多様性を準備しないといけない。韓国の徳寿宮では1995年から衛兵交代を始めた。沖縄の首里城でも1日1回でいいから、当時のイベントを見せる仕組みをつくれば、滞在時間を延ばし、お金を落としてもらえる。堂々とお金が払えるものをつくり、提供することが大事だ。

 アトキンソン氏 首里城は空っぽ。例えば海外から大事なお客さんが家に来るときに、家具を片付け家を空っぽにして、飲食禁止の接待をする人はいない。首里城も戴冠式などいろんな儀式が毎日のようにあったと思う。映像を流すだけでは、雇用にもならない。首里城は文化財ではあるが、文化じゃない。王様の住居で、儀式をする舞台に過ぎない。舞台でお金を取るのは成り立たない。冷凍保存状態で、何の楽しみもなく、観光とは言えない。

 安里氏 国内市場は必ず衰退する。沖縄は香港、台湾、中国、韓国をコアターゲットにしている。今後の課題は。

 糸数氏 課題はいくつもある。一つは国際通りなどの通りの魅力づくりだ。行政もある程度条例をつくり、制限し、通りごとに魅力的にしていく。まちづくりや通りのコンセプトを官民一緒に取り組まないといけないが、非常に弱い。沖縄は、多様性を持った魅力あるまちづくりができる。

 宮島氏 今、県民1人が年間124万円を使う。観光で訪れる中国人は平均約15万円。日本人は約7万円を使う。沖縄も今後、人口が減ってくる時代に入る。交流人口やにぎわいの創出、お年寄りの生きがいづくりのために、観光客の呼び込みは欠かせない。

 欧米人が来たくなるようなコンテンツの多様性がない。県内でギリギリ合格は、ガンガラーの谷と、大石林山のツアー。いろんな植物やチョウがいるが、紹介するツアーがない。来てくれるコンテンツをそろえていくことが先。そうすることで、長期滞在や消費につながる。

 アトキンソン氏 文化は強みだが、あまりにも偏った魅力の発信はやめた方がいい。フランス人は文化好きでも、朝から晩まで文化財ということではない。多様性に欠けることもよくない。沖縄料理を食べたいと思うが、毎日毎日食べたいとは思わない。沖縄は自然や文化はそろっている。あとはやる気の問題だ。

 沖縄は環境がものすごく恵まれていて、観光立県として一番進めやすい。台湾だけでなく、欧州も狙って、多様性に富んだ、モデルを国全体に示してほしい。経済もよくして、県民を増やしていく、観光の成功例を実現してほしい。