安倍晋三首相の憲法改正に向けた発言が前のめりの度を強めている。

 参院予算委員会で憲法改正を「在任中に成し遂げたい」と答弁した。安倍首相の自民党総裁の任期は2018年9月まで。自身の任期とからめて改憲時期に踏み込むのは初めてである。

 衆院ではすでに自公で3分の2以上の議席に達している。発言は、夏の参院選に向けて「改憲勢力」のおおさか維新の会など野党を引き込み、参院でも国会発議に必要な3分の2以上の議席の確保に意欲を示したものである。

 衆院予算委でも、憲法を改正し集団的自衛権行使を全面的に認める必要性に言及している。なぜ、憲法改正について発言をエスカレートさせているのだろうか。参院選に向け、憲法改正の世論喚起を促す狙いがありそうだが、自民党内や連立を組む公明党からも異論が出ている。

 安倍首相は参院予算委で具体的な改憲項目には触れなかったが、「緊急事態条項」の創設を念頭に置いているとみられる。それを突破口に本丸の憲法9条を改正する2段階戦略を描いているのだろう。

 武力攻撃や大規模災害などが起きた場合に対処する緊急事態条項とは何か。自民党が14年に公表した日本国憲法改正草案に盛り込まれている。

 それによると、首相が閣議にかけて「緊急事態」を宣言する。内閣は国会の関与なしに法律と同じ効力を持つ政令を制定し、地方自治体の長に指示することができる。国民は国や公の機関の指示に従わなければならない…。

 「戒厳令」を思わせるような内容である。

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 憲法は国民が権力をしばるためにある。

 だが、緊急事態条項は三権分立を否定し、基本的人権を制限する。立憲主義に背き、憲法を破壊する恐れがある。独裁政治が生まれる可能性があり、大きな問題をはらむ条項と言わざるを得ない。

 緊急事態に対処する法律はすでに整備されている。

 他国からの侵略には武力攻撃事態法があり、大規模災害には災害救助法や災害対策基本法がある。仮にこれらの法律に不備があれば、法改正するのが筋であろう。

 東日本大震災の被災地の弁護士会などが「災害対策を口実に緊急事態条項を創設することは許されない」と訴えていることからも分かる。法改正の手続きをすっ飛ばして、いきなり憲法改正で創設しようとするのは順序が逆である。改憲そのものが自己目的化しているというほかない。

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 共同通信が1月に実施した世論調査によると、参院選後に憲法改正を進めることに「反対」は50・3%で半数を占め、「賛成」は37・5%。民意との乖離(かいり)は鮮明だ。

 安倍首相はかつて現行憲法を「みっともない」とさげすんだことがある。国会議員は99条によって憲法を尊重し擁護する義務を負わされているが、それに反する。

 なぜ、いま憲法改正しなければならないのか。どこをどう変えたいのか。安倍首相は国会において、まずこの疑問に答えるべきだ。