病に震える手でトーチを受け取り、聖火台に火を付けたのは元プロボクサー、モハメド・アリさん。20年前、アトランタ五輪での感動的なサプライズを鮮明に記憶している

▼さらに遡(さかのぼ)ること36年前、黒人であることを理由にレストランの入店を拒否され、ローマ五輪の金メダルを投げ捨てていた。あらためて当時のメダルを贈る心憎い演出の場所が「五輪の最も重要なシンボル」であることも伝えていた

▼かたや2020年東京五輪・パラリンピック。主会場となる新国立競技場内に聖火台の設置場所がないことが明らかになった。エンブレム、ザハ・ハディド氏デザインの旧計画の撤回に続く3度目の失策である

▼なにせ遠藤利明五輪相は記者会見で、国と関係機関が「聖火台について具体的に議論をしてこなかった。旧計画の案で済んでいた気もしていた」と釈明したから、開いた口がふさがらない

▼二つの失敗で指摘された無責任体質と連携不足という教訓は今度も生かされなかった。4月末までに設置場所を競技場の内か外か決めるが、過去の夏季五輪で外に置いた例はないらしく難題が待っている

▼聖火台点火の演出は五輪開会式の見せ場で、秘密裏に進められるのが常。大枠で決めるとはいえ、自ら設置場所に注目を集めさせたのは、もはや政治ではなくドタバタ喜劇である。(与那嶺一枝)