きっかけは東京都内に住む30代前半の女性が2月中旬、ネット上に投稿した匿名のブログだった。

 「何なんだよ日本。一億総活躍社会じゃねーのかよ。昨日見事に保育園落ちたわ」「何が少子化だよクソ」

 待機児童問題が解消されないことへの不満を激しい言葉遣いでつづったこの文章はネットで広まり、子育て世代や同じ経験を持つ女性から共感の声が相次いだ。

 そのあとの展開が実に興味深い。自身、子育ての最中である民主党の山尾志桜里議員が2月29日の衆院予算委員会でブログの内容を取り上げ、当事者の思いに寄り添いながら、データと論理を駆使して安倍晋三首相に論戦を挑んだのである。

 安倍首相は「匿名なので実際に本当かどうか確かめようがない」と追及をはぐらかし、議員席からも「誰が書いたんだよ」と首相答弁を援護射撃するヤジが相次いだ。

 このやりとりがテレビやネットで流れると、ツイッターなどでブログの内容に賛同する声が広がり、5日には「保育園落ちたの私だ」などと書かれた紙を掲げ、約30人の女性たちが街頭で声を上げた。

 ネットが個人の発信力を高め、当事者たちをつなげ、その波が国会に環流し、国会での論戦に刺激されて当事者たちが街頭に繰り出す。静かではあるが、待機児童問題が当事者にとっていかに切実であるかが伝わるような抗議行動だ。

 ここに見られるのは当事者の切実さに裏打ちされた「民主主義の新しい形」である。

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 山尾議員は、1月13日にも待機児童の増加原因について、安倍首相を追及している。

 待機児童の数は2010年から14年まで連続して減ったが、15年には増加に転じ2万3167人となった。なぜ、増えたのか。働く女性が増えたからだというのが政府の説明であるが、25歳から44歳までの働く女性の数は14年から15年にかけて減っている、と山尾議員は指摘する。

 保育所の数を増やすことは重要である。だが、それだけでは問題は解決しない。深刻なのは保育士不足である。保育士が足りない最大の要因は平均給与が低すぎること。補助金を活用して増設しようにも保育士が集まらないのである。

 保育士の処遇改善については安倍首相も前向きに取り組むことを明らかにしているが、実効性のある施策が打ち出されているかどうか、もっと検証が必要だ。

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 昨年4月現在の沖縄県の待機児童数(速報値)は、前年に比べ431人増え2591人に。沖縄県の現状は東京などの大都市以外ではもっとも深刻だ。県は16年度から保育士の給与体系を見直す事業所に対して補助金を支給し、待遇改善を後押しする。

 保育士確保のため県も市町村もさまざまな施策を打ち出しているが、行政を突き動かしているのは「鬼気迫るものがある」と城間幹子那覇市長が表現する現場の声だ。当事者の切実な声が政治を突き動かす大きな力になることを再認識させる。