津波が来たときは1秒でも早く高台に逃げること-。東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県釜石市で、教訓を継承しようと2014年から始まった高台避難の啓発行事がある。2月7日に開催された「第3回新春韋駄天(いだてん)競走」だ。参加者約112人は、同市只越町の市街地から高台の寺を目指し、高低差約26メートル、長さ約286メートルの坂道を駆け上がった。記者も大会に参加し、高台へ走ってみた。(北部報道部・西江千尋)

手をつないで、高台の寺院までの坂道を駆け上がる親子=2月7日、岩手県釜石市

岩手県釜石市

手をつないで、高台の寺院までの坂道を駆け上がる親子=2月7日、岩手県釜石市 岩手県釜石市

 同市によると、震災により市内で亡くなった人は888人、行方不明者は152人(3月現在)。多くの人が津波の犠牲になった。

 震災後、同市出身の有志でつくる「釜石応援団」が、実際に高台へ走ることで避難を体で覚えてもらおうと、韋駄天競走を企画した。兵庫県西宮神社の行事「福男選び」にヒントを得た。

 震災当時、スタート地点の市街地は波に漬かり、コースは実際に多くの人が逃げた道だ。参加者はまず、コースを歩きながらスタッフから説明を受ける。強調されたのは「競走が目的ではない」ということ。

 コースは地点ごとに「てんでん小路」などの名前が付く。一刻も早く避難し、自分の命は自分で守るという教訓「津波てんでんこ」にちなんだ。迅速な避難を意識してもらう工夫だ。

 いよいよスタート。号砲とともに参加者が一斉に駆け出す。まずは比較的平らな「てんでん小路」。まだ余裕、と思いきや急勾配の「スタコラ坂」へ突入する。登り切ると180度カーブの「運命の荒巻カーブ」。一気に息が上がる。

 きつい。だめだ、もう走れない。ラストスパートの「きづな坂」は、沿道の声援に促され「とにかく高い所へ」と必死で走った。286メートルと聞いて「そんなに長くないな」と思っていたが甘かった。タイムは約2分、参加した女性部門では後ろの方だった。

 実際に災害が起きたとき、混乱せずにちゃんと避難できるだろうかと不安になった。

◇     ◇

 最後にゴールテープを切った女性がいた。第1回から毎回参加している最高齢の佐々木多喜子さん(86)=同市。震災の日、コースを実際に避難した一人だ。「ズン」と、大きな揺れが来た後、足は自然と高台の寺院へと向いた。毎日の散歩道だったからだ。

 「とにかく逃げること。これに尽きる。こんなおばあちゃんでも走れるんだから」と佐々木さん。若い人も韋駄天競走に参加し、災害時に備えてほしいと願う。

 子どもからお年寄りまで参加しやすく、避難路を体に覚えさせる韋駄天競走は有意義だと感じた。海に囲まれた沖縄も、津波とは無縁ではない。釜石の教訓を生かせないだろうか。