災害発生時に備えて地域の防災意識を高める活動や防災訓練などを企画、運用する地域や職場の防災リーダーがいる。東日本大震災の発生をきっかけに、日本防災士機構が認定する民間資格「防災士」の取得者が急増。その数はことし1月現在、全国で10万5140人に上る。地域や職場でも防災についての知識と技能を持つリーダーの存在に注目が集まる中、沖縄県内で活動する防災士のインタビューなどを通して、その役割や意義を考える。

防災士を目指す研修の様子(防災士研修センター提供)

子どもたちを中心に防災教育に力を入れている防災・減災研究所沖縄の久高清美代表=1日、沖縄市内

NPO法人日本防災士会九州ブロック支部連絡協議会の県ブロック代表でもある新城格さん=2月19日、西原町小橋川

全国の防災士数

防災士を目指す研修の様子(防災士研修センター提供) 子どもたちを中心に防災教育に力を入れている防災・減災研究所沖縄の久高清美代表=1日、沖縄市内 NPO法人日本防災士会九州ブロック支部連絡協議会の県ブロック代表でもある新城格さん=2月19日、西原町小橋川 全国の防災士数

■防災士とは

 「家族を」「地域を」「職場を」守りたい-。阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、防災に対する正しい知識と適切な判断力を兼ねた人材を育てようと2003年にスタートした「防災士」制度。資格取得のための講座を実施している防災士研修センター(東京)によると、資格の取得者は、行政の防災担当者や地域の防災組織に属している人だけではなく、企業や学校関係者、学生や主婦にまで広がっている。

 同センターで講師も務める玉田太郎常務によると、東日本大震災後、防災士の取得者数は2倍になり、年間1万人単位で増えている。同震災前までは、資格取得は50代~60代の男性が約9割を占めていたが、「被災地でのボランティア活動に生かしたい」「自分の身や家族を守るため」などの理由から今では若い人も増え、特に女性が目立つようになった。また企業の中には「防災知識を活用した商品開発」などを理由に、資格取得を目指す場合もあるという。

 防災士の主な役割は(1)災害時、公的支援が到着するまでの被害の拡大の軽減(2)災害発生後の被災者支援の活動(3)平常時の防災意識の啓発、自助・共助活動の訓練―の三つ。

 防災士になるための特別な義務や権限はなく、日本防災士機構が認証している研修機関の講座を受けた上で試験に合格し、救命救急講習を受ければ取得できる。研修プログラムでは「地震のしくみと被害」「避難所の開設と運営」「風水害と対策」「災害と危機管理」などを学ぶ。

 玉田常務は「災害時の被害を少しでも減らすためには、平常時の活動がとても重要」とし、「防災士の増加は、防災意識が常識となるための後押しになる。自助、共助の取り組みが広がることを期待している」と話した。

 資格取得などの問い合わせは同センター、電話03(3556)5051。(社会部・吉川毅)

<県内防災士 役割と課題>

■いざ行動 幼少教育が鍵 久高清美さん(防災・減災研究所沖縄代表)

 防災・減災研究所沖縄の久高清美代表(58)は、子どもたちを中心に沖縄市内での防災教育に力を入れている。幼少の頃から「自分の命を自分で守る」知識を教えることで、いざというときに行動できるようにするのが狙いだ。防災教育の取り組みや今後の課題は何か。久高代表に聞いた。

 -活動のきっかけは。

 沖縄市消防団員として約20年活動を続ける中、日ごろから地域に顔を出して防災や減災の意識啓発をすることが大切だと感じるようになった。2014年10月に防災士の資格を取得し、研究所を立ち上げた。

 -研究所の取り組みは。

 消防本部と連携して昨年は美里や照屋、越来の自治会で予防救急、防災教育を指導した。大切なのはまず行動することだ。救急が必要なときに周囲に助けを求めてすぐに119番通報し、救命に当たる。救急車が到着するまで心臓マッサージを続けることが大事だ。小さいころに身に付けたことは大人になっても覚えている。早くから指導することで救える命が増えていく。

 -心掛けていることは。

 専門的な知識をできるだけ、かみ砕いて教えるようにしている。火災は熱源を断つ、可燃物を取り除く、酸素を遮断する-のいずれかをすれば防げる。だが「コンセントに積もったほこりを取り除こう」「常日ごろから家庭内外を整理整頓し、火の元に物を置かないようにしよう」と言えば分かりやすい。

 -課題は。

 学校教育の中に防災教育をどのように取り入れてもらえるかだ。課外学習の一環でできないか、行政に働き掛けたい。子どもが学ぶことで大人も関心が出てくる。防災対策は「やらされる」ではなく自ら「やろう」と思うことが重要だ。

 地域での避難訓練や防災講座を工夫し、遊び感覚で親子一緒に参加するようになれば広がりも出てくる。また自治会職員や民生委員、赤十字奉仕団など、地域をよく知る人たちと消防署との結び付きを強めることも必要だ。地域ぐるみで災害時に対応できる体制をつくりたい。(中部報道部・仲田佳史)

■“ご近助力”「阪神」の教訓 新城格さん(西原台団地自治会防災部長)

 「消火器の使い方はピンポンパン(ピンを抜いてポンと外してパンと押さえる)」「台風の進路の右側は風が強い」-。西原町の西原台団地自治会で防災部長をしている新城(あらしろ)格(いたる)さん(67)=同町小橋川=は、毎月のように「防災だより」を発行し地域約130世帯に配っている。ことし3月で53号目を迎えた。

 「ネタはいくらでもあるんですよ。本当は月に2回も3回も出したいけれど、女房孝行も孫孝行もしないといけないからね」と笑う。

 波照間島出身の石垣島育ち。隣り合う白保と宮良でなぜ話し言葉が違うのか、その理由を親や親類からたびたび聞かされた。1771年の明和の大津波。住民が全滅した白保は波照間島から、宮良は小浜島から新たに住民を受け入れた。

 「集落全滅。イメージは沸かなかったけれど、怖い言葉だった」

 東日本大震災の被害を知って初めて、沖縄も最大震度7が想定される災害列島だと意識した。倒壊した建物の下敷きになった人のうち8割が、警察でも消防でもなく家族や近所の住民に助け出されたという阪神・淡路大震災(1995年)の教訓も知った。

 「ご近所力を『ご近助力』に変えよう」と自主防災会を立ち上げたのは2012年4月のことだ。簡易トイレを作るイベントや定期的な避難訓練を通じて横のつながりを大切にしている。

 同年、西原町役場の勧めで防災士の資格を取った。過去の災害事例や気象の仕組みを学ぶうち、防災技術の進歩を感じた。例えば新たな断層が見つかっていたり、被害予測が改まったり。警察官としての約40年間で身に付けた救急救命法さえ、すっかり変わっていた。

 「だからこそ普段からスキルアップして備えなければと思うんです。災害は必ず来る。しかも繰り返し来る」(浦添西原担当・平島夏実)

■沖縄県内に250人、全国最少 少ない受講機会

 防災に関する一定の知識と技能を備え、災害時に住民の救助などをボランティアで担う「防災士」の有資格者だが、沖縄は250人と全国で最も少ない。県内に養成研修機関が無いことなどが理由だが、万が一を見据えた防災リーダーの育成は急務と言える。専門家は「災害の巨大化や高齢者、障がい者などのニーズに対応するため、知識と実践の両輪で防災意識を高めてほしい」と指摘する。

 防災士は、NPO法人日本防災士機構(東京)が認証し、災害の対処や避難所の運営、救命法などの講座を受け、試験に合格すれば取得できる。新潟や福岡などで大地震が発生したことで人々の関心が高まり、11年の東日本大震災以降も増加傾向にある。近年は自治体や教育機関、企業単位で取得を進める動きもある。

 しかし沖縄は資格認証制度のスタート以来、資格取得者の数は全国最少で、2番目に少ない鳥取県の351人と大きな開きがある。

 同機構は、県内での取得に必要な講座がこれまで3回しか開かれておらず認知度が低いと説明。「沖縄のような離島県は、民間組織だけで受講生を集めることが難しい。自治体などが率先して講座を開くと良いのでは」と期待する。

 人口10万人あたりの防災士数が全国1位の大分県では、県が先頭に立ち取り組みを進めている。「自主防災活動促進事業」として、県内にある3600の自主防災組織に1人以上の地域防災リーダーを18年までに配置する計画だ。

 地域防災に詳しい沖縄国際大学特別研究員で防災士の稲垣暁さんは「県内の自治会レベルで防災講座を開くと、子どもたちの反応が良い。特に中学生の防災活動に期待している」とし、「防災士になるには費用問題など一定の負担感がある。まずは『ジュニア防災リーダー講座』の開催や、資格取得の一歩手前の敷居を低くした取り組みが必要なのでは」と話した。(社会部・知花徳和)