沖縄最大の歓楽街・那覇市松山は、空港から車で約10分、国道58号沿いで交通の便もよく、ビジネスホテルの激戦区だ。ここで、隠れ家レストランのような88室の小さなホテルが人気を集めている。オープンは2015年8月と日は浅いが、宿泊客の8割が外国人旅行客で、そのうちの5人に1人がリピーターだという。有名チェーンの向こうを張って支持を得ているホテルには、どんな集客の仕掛けが隠されているのか、裏側に迫った。(ライター・シマブクロショウ)

入り口に広がるのは境目のないレセプションとレストラン

レストランには気軽に交流できるような大きなテーブルが置かれている

いすのカバーも外国人客が好みそうな柄で目を引く

エスティネートホテルの公式サイト

シンプルな内装の客室

以前の建物をリノベーション。ドイツから輸入した壁紙など異国情緒漂う内装も魅力だ

山崎剛代表取締役社長

入り口に広がるのは境目のないレセプションとレストラン レストランには気軽に交流できるような大きなテーブルが置かれている いすのカバーも外国人客が好みそうな柄で目を引く エスティネートホテルの公式サイト シンプルな内装の客室 以前の建物をリノベーション。ドイツから輸入した壁紙など異国情緒漂う内装も魅力だ 山崎剛代表取締役社長

 「ESTINATE HOTEL (エスティネートホテル)」に入ると、スタイリッシュなレストランが広がっている。取材に来たことを伝えようとフロントを探すが、見当たらない。困惑している僕に「受付はこちらになります」とスタッフが案内してくれた。レストランで取材に応じた山﨑剛代表取締役社長は、これが戦略の一つ「人が集まる場づくりの設計」だと説明を始めた。

 一般的なホテルは、宿泊客の受付をするレセプションがある。広く、独立して設けられているため、迷うことなくたどり着けるが、ここはレセプションとレストランの境目がなく、曖昧さが演出されている。ホテルに次々と入ってくる利用客を観察していると、やはり、かなりの人が一度、立ち止まって状況を把握しているようだ。「フロントはどこだ?」と。

 一方で、レセプションからはレストラン内での食事や会話を楽しむ様子がよく見える。利用客同士だけでなく、スタッフとのコミュニケーションも見える。これが肝となる。山﨑社長は「会話がしやすい場所なんだ、ということをチェックインの段階で感じていただいています」。

 コミュニケーションの重要さはスタッフのオペレーションにも徹底されている。レセプション、レストラン、ホールが一体となった設計のため、ホールが忙しいときはホールへ、レストランが忙しいときはレストランへといった、スタッフの配置も流動的に行うことができる。総人員を極力抑え、効率良いオペレーションを図っている。空いた時間は、お客さんとゆっくり会話できる。日本語レッスンや書道、無料のピザパーティーなど積極的に交流イベントも開く。

 「"おかえりなさい”といった具合に、お家に帰ってきた安心感を与えるよう心掛けています」

 競合との差別化は、宿泊、立地やアクセスなどハード面ではなく、これまでのホテルにない新しい"体験の価値"に置いたことで、宿泊客の取り込みに功を奏している。

■急増するインバウンド

 現在、沖縄の観光客数は右肩上がりに伸びている。2015年は前年比10%増の約776万人で、過去最高記録を更新した。

 本土の不動産会社や外資によるホテル開発は慌ただしく、那覇空港は第2滑走路建設が進んでいる。観光客数1千万人ロードマップを策定するなど、行政による積極的な取り組みも追い風になっている。15年の外国人観光客は前年比68%増で150万人を突破。沖縄観光客全体の約19%を占め、今後も増加が見込まれる。

 とはいえ県外から訪れる観光客と同じ手法で集客しても彼らを呼び込むことはできない。そこで、山﨑氏が目を付けたのがホテルのデジタル戦略だった。

 通常、日本のホテルのサイトはコンテンツが充実している分、複雑で、予約ページまでたどり着きにくい。山﨑氏によると「外国人はシンプルで分かりやすいプランを好む」という。海外の宿泊予約サイトを見ると確かに、部屋単位で料金が表示され、プランも少ない。エスティネイト・ホテルのサイトも情報は最小限に抑え、プランも簡略化し、すぐに予約ができるよう分かりやすく設計した。

 そして、全ての予約は、ブッキング・ドットコムやエクスペディア、アゴダなどの外部の宿泊予約サイトを利用している。利用者が書き込む口コミ情報を参考にホテルを選ぶ傾向にあるので、サイトを利用する人が多いほど、投稿される評価の数も比例して多くなる。口コミによる安心感の影響は計り知れない。

 しかし、現実にこのような具体的な対応ができているホテルはそう多くはない。言語対応できるスタッフの育成や販売チャネルの開拓などに加え、長期的な整備が必要になる。エスティネートホテルは、交流の場づくりとシンプルなサイト構築でインバウンド集客に成功した数少ないモデルケースとなりえる。今後、インバウンドを中心とした観光客の取り込みには、こうした発想と工夫が必要になってくるだろう。

■台頭するAirbnbと根底は同じ

 さて、ここ数年、宿泊業界では“黒船”Airbnb(エアービーアンドビー)が着実に浸透し、沖縄でも広がっている。空き部屋仲介サイトで、ホテルなどの宿泊施設と比べて安価に利用でき、地元の人の生活感を味わえることでも人気を集めている。世界190カ国以上、6千万人ものホストが登録するほど急成長したサイトも、もともとは現地の人と交流ができるサービスとして知られていた。 エスティネートホテルが掲げるビジョンと同じである。ただ、ホテルが好調なのは急成長するインバウンド市場をうまく取り込んだだけではないということだ。山﨑社長が経営する株式会社グローバルエージェンツは、ソーシャルアパートメントと呼ばれる住民交流型マンションを運営している。首都圏に34棟・約1800室を展開、これまで培ってきた経験を生かし、開業したのがこのエスティネートホテルになる。ホテルの業歴は浅いが、拡大する市場を見越し、「人が集まる場づくり」という価値を提供し続けてきた点は見逃せない。

 そして今、山﨑社長は新たな未来を見据えている。

 「ホテルは本来、地元に開けたものであるべきだと考えている。その土地にあるからこそ、そこに住む人に受け入れられ、利用される場所でなければならない。今後、地元の人と宿泊客が交流できる場所になるように、フリーマーケットや映画鑑賞などの企画で地元にも貢献できる場所にしていきたい」。

 「Meet Local,Feel Global」。ホテルが掲げるコンセプトだ。旅行者には地元に触れる体験を、地元の人には旅行者を通じて世界を身近に感じる体験を提供していく。新しい価値観やライフスタイルを、街や社会の「文化」に昇華させることがミッションであり、山﨑社長が目指しているホテルの形である。エスティネートホテルの旅はまだ始まったばかりだ。

<プロフィール>

山崎剛代表取締役社長

 2005年5月、東京工業大学在学中に有限会社グローバルエージェンツを設立。大学卒業までに1物件をオープン、他2件のプロジェクトを手がける。2006年4月、ゴールドマン・サックス証券株式会社に新卒入社。マーチャント・バンキング部門にて、グローバルのファンド資金を利用した国内の不動産投資に携わり、オフィス・商業施設・ホテル・ゴルフ場・不動産関連会社などの投資案件を担当。2008年に同社シンガポール支社にてアジアでの不動産投資に従事し、2009年1月ゴールドマン・サックスを退職。2009年2月、株式会社グローバルエージェンツ代表取締役に再就任しソーシャルアパートメント事業を本格展開。現在はソーシャルアパートメント以外にも事業領域を広げ、コンセプトとスタイルを重視したホテル事業や飲食事業なども手掛ける。