2018年(平成30年) 6月23日

タイムス×クロス 木村草太の憲法の新手

木村草太の憲法の新手(80)高度プロフェッショナル制度 労働者側にメリットなし

 政府は、働き方改革推進法案に、「働いた時間ではなく成果で」賃金が支払われる仕組みを導入するために、働き方改革関連法案に、高度プロフェッショナル制度(高プロ)の創設を盛り込んだ。

木村草太さん

 高プロの対象は、「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務」とされる。

 さらに、(1)「使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められている」こと(2)「労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上である」ことという条件を満たす必要がある。

 この条件を満たす者が同意すれば、労働基準法上の「労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金」の規定の適用を除外することができる(労働基準法の改正案41条の2)。

 高プロには、労働問題専門の弁護士や過労死の被害者遺族などから強い批判の声が上がっている。

 まず、現行法でも、業績に応じてボーナスを出したり、賃金を上乗せしたりすることは禁じられていない。また、勤務時間内に、なすべき業務が終了した場合に、賃金を減らすことなく早退を認めても、現行法には違反しない。労働者にとって、高プロ導入のメリットはない。

 他方、使用者には過重労働や過労死を防ぐ安全配慮義務がある。労働時間の上限規制や、最低限の休憩設定義務は高プロ対象労働者にも必要なはずで、これらの適用を全て除外するのは不適切だ。

 この法案で実現されるのは、「成果で賃金が支払われる制度」ではなく、「成果がでない限り、いくら働いても残業代が出ない制度」であり、「残業代ゼロ法案」と批判されるのもやむを得ない。

 また、法案には、憲法の観点からも疑問がある。憲法27条2項は、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と規定する。労働基準は、政令や省令など行政機関限りで決定するのではなく、国民の代表が集まる国会で討議をして、法律という厳格な形式で決めるべきだからだ。

 しかし、高プロの規定の肝心部分は、「厚生労働省令で定める」とされている。法律には多少の基準が定められるのみで、対象業務・合意の方法・対象労働者の年収基準は、行政の判断で変えられる。これでは、国会が労働基準を決定しているとは言えないだろう。

 さらに、多くの論者が指摘するように、「労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない」という効果は強烈すぎる。条文通りに適用すれば、休憩なしの24時間勤務を連日命じることも、理論的に可能になってしまう。

 成果を基準に賃金を支払い、柔軟な労働時間を設定したいなら、高プロよりも良い方法はいくらでも考えられる。この法案を強行に実現するのは、あまりに危険だ。

(首都大学東京教授、憲法学者)

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